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救命具を設置しない旅客機?

テプコの副社長らを科学的無教養とこき下ろした。しかし水素爆発に対する見解のあの話し振りになにかを感じた者は少なくない筈である。もう少しその内容を吟味してみる。

副社長は、「建屋内で起こることは」と慎重に付け加えていたのであるが、これはやはり興味深い。やはり地震によって格納容器への配管に破損が生じていたかどうかは、かなり重要な視点であり、誰もが感じていた「圧が上がって入らない圧力容器ではなくて、格納容器に注水しても水位が上がらなかった不思議」にも関連している。逆にそれは水素爆発における水蒸気を含む建屋への吹き出しということになるのだろうか。

2006年にアーヘンの高等専門学校に出されたクロアチア人技術者の博士論文をリンクで紹介したが、その内容を読むと、その真実がいくらか見えてくるようである。その論文自体は、軽水炉における水素の触媒を利用した再結合化が主題である。

既に加圧式では実用化されているその機構を、その化学的な推移から軽水炉にも応用していくための基礎的な研究である。そこの前書きには、加圧水型での水素爆発の事例としてスリーマイル島の事故、そして軽水炉型の事例として2001年12月14日のブリュンスビュッテルでの事故例が挙がり、その場所が数メートルずれていたら冷却水系の損失となり大惨事を招きかねなかったとしている。その一月前である11月7日には同じ軽水炉の浜岡原発で全熱除去系配管破断事故が起こり同様の水素爆発への対応が要請されている。

当然のことながらそうした対応策は各国で長年取り組まれていて、日本においても東芝と三菱のジョイントヴェンチュアーである東芝三菱電機産業システム株式会社が1999年に既に取り組んでいる。

しかしそこでの意味合いが所謂排ガス再結合器と呼ばれる装置と異なっているのは、燃料溶解後六時間を境にしての所謂インとエクス・ヴェッセル期における対応の相違のようである。付け加えれば炉心露出での大量の水素発生の相違であろう。いづれにしても、水蒸気と空気と水素の割合によって、それが放射能が冷却水を分解して出来ようがなかろうが爆発事象を起こす。その空気の流出入速度や量によって、触媒を含む温度反応の差となる。

我々門外漢がこうして考察しても、地震で配管が緩み、一方圧力容器内で冷却水の循環停止からジルコニウムが反応して水素を発し、さらに大量の蒸気とともに酸素と反応するような状況は、所謂安全神話ではタブーとなっていたような現象に違いない。

興味深いのはこうした外付けの装置が電源喪失でどのように駆動されるかなどもあるが、そこで思い起こすのはチェルノブイリの冷却システムであり、タービンを回す蒸気量を調整することで冷却水の通量を定めることとなって、冷却水の流量を抑えることで炉の安定化を図り、結局は稼動して直ぐに暴走してしまうことになったのであった。複雑な大きな環を描いているシステムは万全であれば幾重ものフェールセーフ機構として機能するのだろうが、ただ一つの釜のその循環が途絶えたところで全て崩壊してしまうのも当然の結果なのである。

スリーマイル島事故のバブコップ社のコンクリートで囲まれた格納容器が強靭であったから大事故を避けられたのであるが、それも配管などが先に破損していたならばさらに大量の放射能漏れは避けられなかったのであろう。テプコをはじめ日本の原子力むら人がそうした想定をしないというのは、飛行機の救命具をつけないような感じだろうか?フランスが原子炉の下にコンクリートを設置させたストレステストとの感覚の違いがそこにも表れているのだろう。



参照:
Experimentelle Untersuchungen zu katalytischen
Wasserstoffrekombinatoren für Leichtwasserreaktoren
(pdf), Pere Drinovac (RWTH Aachen University)
浜岡原子力発電所1号機余熱除去系配管破断事故 (高度情報科学技術研究機構)
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by pfaelzerwein | 2011-08-20 04:24 | Trackback
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