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泣きべそで「この豚!」

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泣きそうになって警察官に「このぶた!」と叫んだ。仲間のこのスポーツクライミングのインストラクターが登ったところはプファルツでは「登れる奴の試金石」となる「神々の割れ目」と称されるルートで、1951年に初登攀されていて難易度では六級上でしかない。しかし、後続してみてその試金石の意味も分り、ヨセミテ経験者の者などでもまだ登っていない者が多いのも分った。

大きな三つのハングに小さな乗り越しなどが続くので、凹角と言えども体力勝負となる。初見で登った警察官に「人生のハイライト」と言わせるように最後は頭が空っぽで我武者羅に登り切ったようである。

そしてその後に有志が続いたのであるが、途中の支点などを回収する筈の過去に5.12を登ったそして今でも七級を初見で登れる仲間が一つ目の難所であらゆる手段を用いて散々苦労した挙句、腕の不調で下りてきた。

可也苦労することが分っており登り切る保障が出来なかったのだが、こうなれば幸いと挑戦するしかない。流石に一つ目の難所までは先行者は完璧にこなしたがこちらは一度手を滑らせた。それでも重要なのは力を温存することなのは戦略的に承知していた。そもそもこの一二年はトップロープで登れないところは殆どなくなって来たのであるから登り切るのが普通なのである。

さて件の難所は、下から見ると足場をなんとか左右に突っ張って使えそうだったのだが、少なくともこちらの足や手では不可能なのも分り手掛かりが無いところだった。挑戦すればするほど体力の消耗は間違いなかったので、先行者がしたようにシュリンゲを鐙代わりに使い試すが、それでも乗り越せない。

理由は簡単である。後続者は上からザイルで引かれるので外へと引かれてしまうのだ。それでいながらザイルの流れから本格的に上から引き上げて貰うことも出来ないのである ― 実は前日に石切り場で若手のホ-プに唯一のオヴァーハングの乗り越しを見せようとしたら全く同じ理由でトップロープで登ると、ロープをリードする時よりも難しいことに気がついた。

兎に角、直前まで七級のルートをトップロープで登っていたのでもはや余力は限られている。一体何度、宙吊りになってハーケンの頭に飛びついて壁に戻ったことだろう。なるほどその難易度に準じた手掛かりはあるのだが、とんでもなく使い辛いのである。身体を丸めるように岩場に押し付けて七度目の挑戦ぐらいで乗り越えたときには完全に逝ってしまっていた。

その上のハーケンまで進み次のハングの下へと辿り着いたが、今度は更に外へとザイルに引かれるのである。まだ半分しか来ていないと言われ、失神しそうな気持ちになるが、折角の難所をこなして回収すべきカラビナ類はあと二箇所となっている。

こうなればありとあらゆる可能性を駆使してなんとか抜けるしかないと思うのだが、最後のカラビナを回収して、最後のハングの下に立ったときにもう駄目かとも思わせた ― まさしく豚野郎が手が滑りそうになるのをニルヴァナの境地で乗り越えた部分である。

泣きべそ状態で登り切ると、「これが我々の実力程度」とドイツ山岳協会の支部のそれをお互いに認識したのである。決して悪くはないのである。とんでもなく登り甲斐があるのだ。これほど汗掻き掻きの厳しい思いは十代のときにカラビナだけを握ってオーヴァーハング超えをしたりと福知山線の百条岩や不動岩などのそれらを暑い時期に登って以来である。そもそも本格的なオーヴァーハング攻略は来シーズン以降と考えていたので、大変大きなトレーニングの示唆を得た。

しかしここまでの苦労をしなければいけない理由などは何一つ無いのだ。身体をそこまで苛めて鍛えることで健康になるならそれも良かろうが、豚野郎が頭が空っぽうになるような強い運動をする価値などは容易に見出せないだろう。それでもこの名物ルートを曲がりなりにも通して登ったことで何時か挑戦する下地が出来たことにもなる。



参照:
命を粗末にしてはいけない 2012-07-03 | アウトドーア・環境
いつか気候が良くなったら 2012-07-07 | 生活
by pfaelzerwein | 2012-07-09 01:42 | アウトドーア・環境 | Trackback
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