人気ブログランキング | 話題のタグを見る

こうなると付け焼刃の勉強

「ルル」の三幕は、はめこ構造の中で、どんどんと逆行していくのだが、その中で調性の強調がシュールリアリズムな効果を上げている。初めてじっくりとパリ初演のVIDEOを観た。生演奏のためが管弦楽が可也がたがたになっている。流石にLPの方はテークを録ってあるのでそこまでは不満は無かった。

三幕の楽譜を探しているうちに、結局全曲のフルスコアーを落としてしまった。こうなるとこれで一通り目を通さなければ気がすまなくなった。ピアノ版に比べるとオーケストレーションされているので風通しはよくなるが、やはり情報量は格段に増えた。

第一幕でルルの主題と対照的なガヴォットはプチブリュジョワを描くようだが、それは画家との単純なカノンからシェーン博士の主題として引き継がれ、二場のコーダでの最初のクライマックスを迎える、そして更に崩れた三場のラグタイムを挟んでイングリッシュヴァルツァーへと広がり、ガヴォットが手紙の主題となって、シェーン博士とルルの性的対峙へと進む構造は、もはや知能判を超えた天才的な劇場感覚としかいいようが無い構成である。

上のパリ上演では例のフィルムの挿入場所でプロテクターも使っていなかった。当時の技術だから仕方が無いのかもしれないが、事情はそこまで手が回らなかったのだろうか。全曲の転回点となるとても大切な場所であるから殆ど無策となっていたのには驚いた。

刑務所から脱獄したルルの弱り方が筋書き通りながら、全体の構造の中で異質に思えたので、余計に音楽構造を探ることになる。勿論劇場効果的には、その後のアルヴァとの対峙へのクライマックスと最後の勝利を強調するためには当然なながらの運びには違いないが、もう一つ音楽的な構造が読めなかった。

正直、三幕に関しては楽譜が無ければ、これほどの書法だとは見抜けなくて、遺作のヴァイオリン協奏曲との関連での和声的なコントラスト以上には十分に気がつかなかったのだ。ここまで書き込まれている作品だとは知らなかった。

夏休みの宿題を八月の最終週に泣きながら片付けるような付け焼刃の勉強になってしまったが、マーラーの第六交響曲のように音符が頭に焼きつかないとしてもそれは仕方が無いだろう。多声的でなかなか複雑なところが少なくない。



参照:
湧き上がるような高揚感 2015-05-23 | 生活
腑分けの変態的な喜び 2015-04-22 | 音
by pfaelzerwein | 2015-05-25 06:43 | 生活 | Trackback
<< 経済的に降臨するミュンヘン 木樽とその不可欠な効力 >>