刃物要らずの親方殺し
バッサーマン・ヨルダン醸造所の醸造親方兼取締役員に思いがけない所でであった。久しぶりだった。ナンタルチア・サンタルチアだ。よりによってナーヘのデーノッフ醸造所の試飲会で会うとは思わなかった。私がしばらく顔を出していないことは知ってるか知らぬかは知らないが、久しぶりだということになった。当然だろう。どうもそこでの試飲は初めてであったようで、私も同じだ。少し話しているうちに、話は木樽の方へと向かった。私自身はそれを話題にしようとは思わなかったのだが、親方の方が私の顔と木樽は強く結びついているようだった。まるでこのブログを訳して熱心に読んでいるかのような錯覚にこちらが陥るほど、私の考えていることが分かっている。流石に当事者であり、専門家だ。私は初期のころから、なにも彼の仕事振りに関してはそれほど厳しい判断を下していなかったのだが、親方の方は我々従来からの顧客に裁かれているような気持ちは持ち続けていたのだ。そしてしばらく顔を見せないとなると、こちら以上に気にしている感じ察せられた。
親方も友達らと来ているようであり酒も入っていて、私も入っているので、機械摘みの話はしなかった。すると喧嘩になる可能性があると感じたからであり、そこまで立ち入る気持ちもない。しかし、トニー・ヨースト醸造所で彼の同僚のハウク取締役の話が出たことなどをした。そのような醸造所に出入りしているのかとか思ったかどうかは分からない。そして、瓶の栓の話へと流れていく。全て木樽の酸化工程と繋がる所謂瓶熟成の奥義へと話が流れる。「うちは10%ぐらいしかいかない」と吐き捨てる。それは「あなたのワイン哲学だから」と彼の就任当時のことを思い出しながら一定の理解を示す。 その横には、ゲスト醸造所のキュンストラー醸造所の親仁がこちらを見ている。先ほど試飲しながら「お隣のヴェルナー醸造所の顧客で、お宅にも十年ほど前に出かけている。」と話すと、「ご近所の付き合いで、町全部が一体になるのが大事だから」とその醸造の協力体制の話をしてくれる。これも彼にとってみれば町の古い醸造所の顧客となると自分がどのように見られるかがとても気になるようだった。 そしてそこにおいてあるリースリングにカビネットと書いてあるのを見つけて質問すると「うちの顧客はどうしてもそれに拘る傾向があって」と説明するので、「私はワイン街道から来ているのでね」と言うと、「どういう意味か分かるよ」と答える。その後の親方との出会いと話だったのだ。 ここで冗談めかして書いているが、これではまるでそのままどこの醸造所に出かけても「会長私設の隠密」と思われても致し方あるまい。ワインコンサルタントでもなんでもない私の発言がとても重い意味を一流醸造所のオーナーや醸造親方に投げかけていることを改めて気がつくのだった。 醸造親方は、オーナーの死去と相続後の状況についても肯定的に説明していた。そして尋ねると、ウンゲホイヤーがよいのではないかとも話していた。それなら近々伺うよと話した。勿論そこまで親方直々に推薦されたなら飲まずには入れないだろう。たとえそこで機械摘みの証拠ヴィデオを写していたとしてもである。勿論事情を質す事も必要になろう。 そして話を終えて様子を伺っていると、キュンストラーの親仁のところに行ってドムデカナイを幾らだと譲ってもらっている。隠してあったリースリングだ。そして尋ねている、「木樽の比率は?」と親仁は「60%」と胸を張って答える。 その後、これはと思って私も購入しようとするとそれが最後だったようだ。結局他のものを貰おうとすると現金がないことに気がついた。「送金してくればよく、ドムデカナイも送ってあげる」と言うが、先ずは「また近々ホッホハイムに伺う」ということで三本だけ持ち帰った。 キュンストラーのワインに関しては改めるとして、バッサーマン・ヨルダンの親方が面白いことを漏らしていた。ワイン街道と比較して、ナーヘの摘み取りは難しいことを向けると、「果実の成熟が遅いので、それはそれで利点もある」と答えた。これはとても意外だった。つまり開花から何週間か時差があることで、秋を長く使えるということになる。つまり酸の分解に功を奏するというのだ。勿論それは貴腐の入った甘口のリースリングを醸造する場合は通説であろうが、天候によっては2012年のように健康な果実から息の長い辛口も醸造できるということにもなる。 参照: 現場を掴んだ証拠写真 2013-10-13 | ワイン F・芸術家と名乗る醸造所 2008-10-04 | 試飲百景
by pfaelzerwein
| 2015-06-10 20:51
| 試飲百景
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