運命の影に輝くブリキの兵隊

承前)グスタフ・マーラーの最高傑作交響曲六番の冒頭はブルックナー作曲第一交響曲の行進曲の引用である。それゆえにポストモダーンの時代にマーラーの交響曲は最も人気が出たとするのは正しいだろう。そして、その引用が謡曲にも及んでいるのは、丁度途上のラディオでフランス人音楽家がバーデン・バーデンの放送局で話していた中世の音楽からルネッサンス音楽への特徴と繋がる。そうしたメタシムフォニーとしての第六交響曲では、一楽章の第二主題のコラールからその展開の鐘の音や遠くの山城、鳥の囀りやカウベルに交じってきらきらと彩光を放つと、その音達に注目したのがダリウス・シマンスキーのオリエンティーリングだった。それは、例えば12世紀に流行ったバイエルンの金箔の聖画に表れるように、丁度クリムトの画風と並行している。そこまでは周知の事実として、その意味合いが考察される。それは、このマーラーの交響曲の場合の所謂悲劇的な運命が大きければ大きいほどその投げかける大きな影に、丁度幼児期に退行するように、光り輝く子供部屋の世界に引き戻されるというものだ。それが、ブリキの兵隊であったり、お城の王子の世界であったりとするということで、この幼児の世界つまりきらきらと光り輝く所謂砂糖菓子のような風景が音響になるということである。

今回のバーデン・バーデンのコンサートは、前夜の悲愴交響曲そしてこの六番と、まるで音楽監督サイモン・ラトルのプロデュ―サーとしての手腕を見せたような構成になっている。前日のオリエンティーリングも19世紀の時代背景、つまりロココの18世紀にはなかった職業選択の自由などに代表される市民社会の勃興が背景にあって、それ故のネオロココ趣味だった。それがまたドイツ語圏のビーダーマイヤーとは異なるフランス趣味の美学の中でのチャイコフスキーの創作であり、勿論そこには18世紀にはなかった悲哀つまり自己実現とその挫折というようなものが人々の人生観に強く影を落としているということになり、そもそもチャイコフスキーの悲愴におけるような主題はそれ以前には存在しなかったとなる。これらをして、一波絡げにまるでドイツロマンティシズムの傍系の民族主義の影響のように取り扱ったのが可笑しいと気が付かせる視線が東欧の人から提供されることはとても幸福なことではないだろうか。

指揮者としてのサイモン・ラトルは、残念ながらフィルハーモニカ―との関係において離婚直前の夫婦のように不幸だった。前日と二日続けて訪れた人を何人かは見かけたが、前日とは異なり楽員の意気はとても低かったと皆気が付いたのではなかろうか。直前まで練習をしていたようだが、一楽章などは、そのままザルツブルクに行っても大丈夫かと思う程、箍が緩んでいたが、最終的にはホルンのシュテファン・ドールが引っ張ってある程度の水準を維持した。管弦楽団の鳴りとして、二日間を比較すれば、どこがどう違うかは明らかだったのではなかろうか?前夜に下りていた楽員が中心となっていて、編成も楽曲も異なるとしても、その響きの充実度の相違は決して演奏者の意気だけの問題ではなかった。要するに、楽譜の音符をどのように一つ一つ拾っていくかに関わっているようだ。

それでも、三楽章の「亡くした愛娘のよちよち歩きの動機」がコーダではあれほど痛切な悲しみとして響くとは今まで知らなかった ― これを看過できる人などいるものか。それだけではないが、このスケルツォを三楽章とする版の内容的な根拠はこれだけでも充分に示されている。これが二楽章に置かれて三楽章アンダンテに繋がるのとでは、このスケルツォ意味が、繋がるのがアンダンテかフィナーレでこれだけ異なり、二楽章とされることで、聞き落とされるものは余りにも大きい。それは動機的連関や動機的処理だけでは説明不可のものではないか?当日のプログラムには、この議論に関して開かれたままの記述があり、結局それを受け止める時代の美意識に拠るのではないかと思う。恐らく、キリル・ペトレンコも二楽章をアンダンテとすると思う。(続く



参照:
もう一つの第六交響曲 2017-04-01 | 音
二十世紀を代表する交響曲 2015-03-24 | 音
多感な若い才女を娶ると 2005-08-22 | 女
第六交響曲 第三楽章 2005-08-21 | 音
お花畑に響くカウベル 2005-06-23 | 音
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by pfaelzerwein | 2017-04-10 19:25 | 文化一般 | Trackback
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