十年先のペトレンコを読むもう一点、見逃せない言及は。テムポに関してと同時代性に関しての「古い録音」への言及だろう。これに関しては、リヒャルト・シュトラウス演奏実践に関して作曲家の録音や同時代の録音をこの天才指揮者も聞いている筈だと書いたことがあるが、後半でこれに関連する方へと質問が進む。 ご自身を昔風の指揮者と考えますか? 確かに、80年代のサウンドフェチの指揮者よりは確かに昔風の音楽家でしょう。どんな音楽家もあまりに立派で鳴り渡る音響を追い求めようとすると、明確な表現を失いがちとなります。しかし今はその傾向は再び反転しているのは長く知られるところで、作品の本質へと迫ろうとしています。それどころか、チャイコフスキーの「悲愴」をノンヴィブラートで弾かせようとする指揮者までいます。全くバカバカしい!もし当時そのようであったならば、作曲家は同時代人から理解されないと感じたことであり、次代の人によってそのように刻まれていた。それは、当時の管弦楽のための音楽ではなく、想像の管弦楽のものだったのですよ。全ての色彩への精神の音楽というものです。 コーミッシェオパーの上演プログラムは、バルトークからモダーンまで至っていますが、座付き管弦楽団というのは専門化するクラシック音楽界という意味で、全く対抗できるのでしょうか? 全くもって。管弦楽というのは、様々な時代の音楽を演奏するものだという見解です。専門楽団と競争しないならそれはもはや必要ないということですよ。勿論それは、敗北しないで、挑戦するという課題です。例えばグルックのオペラでのある箇所で、古楽器がやるよりも更なるダイナミック一撃を、モダーンな楽器の構築的な音響的な可能性を以って可能にしようということです。 これだけの成功したコーミッシェオパーの時代でしたが、一つの初演も五年間で行っていませんね。 認めておかないといけないのは、それよりもモーツェルトでのことについて語る方が重要だということです。勿論新しい音楽へのスペクトラムを投げかけるのは当然です。しかし私がここに来ての、最優先課題は、レパートリー上演の質の向上でありました。そこでは、全くなんでもなく、新しい音楽に向けるというような時間はなかったのです。 ベルリンでは、あなたの管弦楽やフィルハーモニカーへの客演としてコンサート指揮者として登場しました。それでも主にオペラ指揮者と見做されています。それはキャリアーにおいて偶然だったのか、それともオペラは指揮者として背骨に当たるのでしょうか? 実際私のエージェントが、謂わばオペラへ放り込んだって感じですか。学生時代は、寧ろコンサート指揮者だと見てましたし、あんまり歌劇場の音楽監督なんて見ていなかった。八年間は歌劇場の音楽監督で、先ずはマイニンゲン、そしてベルリン、背骨になったとも言える、そしてこれからもまたそのようであり得ます。今モーツァルトの交響曲を指揮すれば、そこにとても多くのオペラを聞き、チャイコフスキーやシュトラウスにおいても変わりないです。これらの作曲家にとっては、オペラは創造の背骨でした。 ベルリンを後にしてからのご計画は、いつベルリンに客演に戻ってこられますか? 先ず何よりも二年間は間隔が欲しい、自身の地平線を広げるためにです。先ず定まったポストには就きません。過去八年間はとても大変でした。毎朝十時に劇場に行って、十時前に自宅に戻ることは殆どなかったです。劇場に食い尽くされた。コンサートには再びベルリンに戻ってきます。しかしここでオペラをやるまでには大分掛かるでしょう。今はこの間に欠けていたものを取り戻して:例えばベートーヴェンとブラームスの交響曲を継続的に研究することです。 つまり、ベルリンではペトレンコの半分も体験できなかったということですね。 そう、あと半分は後追いで配達しますよ。(終わり) 更に重要なキーワードが幾つか出てきた。古楽器、座付き、交響楽団などのあり方で、特に座付き管弦楽団のあり方に関して言及していて、その多様性のあり方を目していて、現在のミュンヘンのそれがどのような方向に進むべきかの指揮者としての視点が読み取れる。同時に逆に推測するとベルリンのフィルハーモニカーが今後どの方向に進むべきかの示唆がここにある。 もう一つは、ミュンヘンの歌劇場の日本公演でも話題になり、また恐らく現在世界最高のクリーヴランド管弦楽団の欧州公演でもはっきりした傾向であり、また反対に指揮者シャイ―の薫陶により管弦楽団として通るようになったゲヴァントハウス管弦楽団のように、嘗てのつまりカラヤン世代の響きは過去のものとなって、それ以前のように管弦楽団が音楽の本質的な表現へと向かうようになったとする私見も、キリル・ペトレンコがここで十年前に裏打ちしていた。またまたノンヴィブラートの指揮者ノーターリンなどを一撃する放言があって、これまた恐ろしい。シュトッツガルトには、政治と金しかなくて、まともなアーティストプロデューサーが存在しない。 もう一つは、あの時点でべ―ト―ヴェンは兎も角、ブラームスにも言及していることだ。これは注目に値する。先月の交響曲四番に続いて、来年はドッペルコンツェルトをカーネギーホールで指揮する。第四番の印象では、通常よりも細かに楽譜を読み解くことで、その形式感や作曲上の狙いを聞きとらせて、絶大な効果を上げる。それだけ十年も掛けて読み込んでいるということだろうが、この指揮者はただブラームスに集中することだけが目的ではない筈なので、そこが次の十年への土台となるということだろう。ベートーヴェンに関しては来年の夏にその研究の結果が聞かれると言うことだ ― 既に台北の練習風景動画でその方向性は予測可能となっている。 参照: "Unser Publikum weiß, dass es mitdenken soll", Das Gespräch mit Kirill Petrenko führte Jörg Köningsdorf (Der Tagesspiegel) Nach Tokio! Nach Rom! 2017-09-15 | 音 シャコンヌ主題の表徴 2017-10-13 | 音
by pfaelzerwein
| 2017-11-13 21:18
| 文化一般
|
Trackback
|
カテゴリ
全体
ワイン 暦 料理 試飲百景 アウトドーア・環境 雑感 文化一般 音 生活 女 歴史・時事 文学・思想 INDEX マスメディア批評 SNS・BLOG研究 テクニック その他アルコール ワールドカップ 数学・自然科学 未分類 BOOK MARK
Wein, Weib und Gesang -
ワイン、女 そして歌 ― 同名の本サイト 以前の記事
2024年 03月
2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 フォロー中のブログ
生きる詩
「断想」 _sin... Rhymes Of An... やっとかめ どっとこむ 美術と自然と教育と 死して屍拾う者無し 小林恭子の英国メディア・... みなと横浜、音楽三昧 ベ... 現象学 便所の落書き 庭は夏の日ざかり Romantic Exp... BOSSの言霊 ラジカル 武士道!【投資... the Sky over... ベルリン中央駅 考える葦笛 デジタルタブローとは。 クララの森・少女愛惜 Weingau --- ... 我楽亭ハリト Warat... Yamyam町一丁目 風のたより 最新のコメント
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
スポーツクライミング
ビュルクリン・ヴォルフ醸造所
レープホルツ醸造所
フォン・ブール醸造所
ピノノワール
ペッヒシュタイン
石切り場
シュペートブルグンダー
グレーフェンベルク
ダイデスハイム
シェーンレーバー醸造所
バッサーマン・ヨルダン醸造所
トレイルランニングシューズ
ヘアゴットザッカー
レッドポイント
グローセスゲヴェックス
ビュルガーガルテン
ランゲンモルゲン
床屋
ゼーガー醸造所
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||