天才も実践から学ぶそこでヤホの歌うコヴェントガーデンのヴィデオを見つけて、更に今回の初日の音声を比較する。これはとても面白かった。こうでもしないとヤホ女史がインタヴューで語り、自らもそのインタヴューをリツイートするヤホの芸術「感情を人に伝えることが何よりもの喜び」からの呪縛から逃げ無くなれるからである。彼女は舞台でその感情を偽って作ってもそれは直ぐにばれると、それを改めて広報するのだから、可成りの拘りの人のようである。 先ず先日インタヴューで語っていたこの役に初めて挑んだ時のヴィデオを聴くと、恐らくパパーノ指揮で間違いないだろうが、全く異なる歌唱で、その演出にも関連しているのだろう可成りおとなしい ― その後よりドラマティックになったと自ら語っている。管弦楽は下支えするかのように思い切って鳴らしているのはこの指揮者の特徴のようだが、更に声が小さく聞こえる。丁度今回の二日目にペトレンコが鳴らしていたのを彷彿させるのだ。再び、三日目の音を聞くとやはりその表現の強さは全く異なっている。そして音にフィルターを掛けられたヴィデオも消去されるまでは観れる ― いずれは部分だけでも劇場からオフィシャルで出して貰いたい。 そして初日の録音を聞くと、可成りテムポもリズム取りも変わっていて驚いた。印象からするとヤホの歌の正確さをチェックしないといけないと思っていたのであるが、実際は異なった。この初日の歌は比較的コヴェントガーデンのそれに近く、自身のレパートリーとしてものにしている楽譜だった。そしてペトレンコ指揮のそれがせかせかしていて十分な拍が取れていない。歌のアーティキュレーションを見れば明らかなのだが、ペトレンコは出来る限りセンティメンタルにならないような拍打ちとテムポを意図したとしか思えない。それゆえに余計にヤホが頑張ったというのが初日の成功だったようだ。そこに聴く側は一種の危うさの様なものを感じていたのは間違いなかった。 そして再び三日目のそれに戻ると、管弦楽が歌にしっかり寄り添うようなつけ方に代わり、その三拍子の弱起の拍が強調されることで全く異なった。するとアーティキュレーションを超えて、リタルタンド、ラレンタンドなどがまた別な意味を持ってくる。歌詞の表現の幅が広がるということだろう ― この点に関してはイタリア語がそれほど得意ではなさそうなこの指揮者への僅かばかり残された気になる点だった。そうした拍打ちをすることで明らかに歌の流れが良くなっている。それと同時に思いがけないほどの表現効果が生じていて、まさしく印象主義から表現主義へとの流れを「パルシファル」以降の直接のそれとして実感させることになる ― 恐らくこの辺りもこの指揮者のレパートリー選択に関連していることなのだろう。勿論、リヒャルト・シュトラウスや「春の祭典」初演のプッチーニの体験などが強く影響していることは改めて言及する必要はないだろう。 ここからは勝手に想像するだけなのだが、キリル・ペトレンコの喝采を受ける映像の様子を見ていると、上から改めてピット内の恐らくコンツェルトマイスターリンに業務連絡をしているようでもあり、気になることを頭で反芻していたようでもあり、何か完成という顔付では全くなかった。この楽曲なども加味して三回目の公演での放映を決断していた訳だが、どうしてまだまだ課題が解決されていないということなのだろうか?確かにこの部分の初日から三回目の変化を見るだけでも、想定以上の変化があった。 本題の歌手と指揮者に関して言及すれば、その喝采を受けている舞台での様子を見ていてもその両者によっては緊張関係が見て取れる。それゆえに、ヤホが三回目に想定以上の反響に驚いた表情を示している事情が読み取れないか?その結果、歌手も指揮者も想定していなかったぐらいの音楽芸術的な成果が生じたのであると思う。彼女のこのレパートリーにおける表現は完全に深まったに違いない。今回のイタリアオペラに関しては、ジークフリートを歌ったシュテファン・フィンケなどの歌手自身のイメージとの齟齬などの発言とは違って、イタリア言語であることも考えれば、天才指揮者でさえ実践を通して学ぶことが少なくないのではないかと思った。いずれにしてもこうして初めてプッチーニの音楽的価値を学術的な評価から抜け出して完全に実践で示したのではなかろうか。まさにこれが哲学用語としてのAufhebenである。(続く) 参照: ヤホに表現の可能性を 2017-12-20 | マスメディア批評 ペトレンコ劇場のエポック 2017-12-22 | 音
by pfaelzerwein
| 2017-12-27 23:35
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