民族の形而上での征圧

d0127795_73868.jpgファシストとして扱われている人物像について精神科学欄が詳しく扱っている。それはトーマス・マン作「ファウストゥス博士」におけるシャイム・ブライザッハー博士のモデルとなるオスカー・ゴールトベルクのことである。

20世紀初頭のベルリンに育ち、既にギムナジウムに通う頃には、その革命的な世界観を講演していたと言われ、後に医師となるが、当時の当地のユダヤ人グループを纏めていたという人物である。ショーレム、ブレヒト、デェーブリン、カール・コールッシュ、ロベルト・ムジールやヴァルター・ベンヤミンがこの中に含まれるだけでなく、所謂1920年代の表現主義運動「ノイエン・クルッブ」を率いた人物のようである。

当然の事ながら、後に米国へと移住するが、そこで、どうも彼はより以上多大な影響を与えている様子である。民族に敵を撃ち砕く力が内包する超自然的体験を重んじたオカルト者として、数の特別な意味を説く即物的な聖書解釈は、もはや神学的ではなく殆ど多神教的な生物・民俗学的な解釈と指摘される。

このような状況をみれば、それはハリウッドにおける「オーメン」などのオカルト映画として、商業的成功と世界制覇があり、現在も進められているグローバル経済の土壌の上の見えない神の意思の実現でもある。

少なくともトーマス・マンは、これを19世紀のド・トクヴィルの説くつまり米国の民主主義思想でもある保守主義の思想から取り出して、態々ベルリンと並ぶミュンヘンのボヘミアンの拠点であるシュヴァービンクを拠点にしたゲオルゲグループをかすめるように、このユダヤ人の含まれるグループを描いている。

そして、それがルネッサンス期以降成長して来た市民社会を母体としているのは言うまでもない。それは、ナッサウ家の王子達をラインの企業家の横に並べることで強調されている。また同時にトクヴィルやシャトーブリアンのフランスにおける対比をここドイツにおいて映し出すという手の込んだ手法を用いているようだ。

しかし、それは社会科学の論文ではないので、明確な思想として整理されている訳ではない。とは言え、ジョルジュ・ソレル著1907年の「暴力論」のロマンティックな暴力革命思想をそこの保守主義思想に重ねることで、ニッチェ、アナーキストのプルードン、ベルクソンの革命的団結に結び付けられる。

特にニーチェは、この作品の終幕では殆ど主人公の姿のモデルとなっているので、この辺りでその接点をしっかりつけておく必要がある。それは、大衆的に一般化したニーチェズムの体現でルネッサンス賛美者のインスティトリス博士として描かれる。

さて再び、ニッチェとヴェーデキントの間に世界観を持つ少年達の中で育ったゴールトベルクに戻ると、宗教改革から究極の啓蒙思想を通ってニッチェへと至る西欧市民社会の中に、アブノーマルな事象を重要視するのがブライザッハーの思想で、これはむしろオズヴァルト・シュペングラー著「西欧の没落」に近いとされる。トーマス・マンは米国に渡ったゴルトベルクに歓迎の手紙を送っているらしいが、やはり米国での見聞がこの作家に与えた影響は、その実際のドイツの姿よりもこの作品に活きているに違いない。作家は、ある期間欧州にはいなかったのは紛れもない事実であるのだ。

すると、ゴールトベルクにこそ、戦後のフランスの脱構造主義のマルセル・モースレヴィ=ブリュールにも影響を与える預言者としての姿がもっとも似つかわしいとする視点が生まれる。シオシズム運動の影に隠されている、その力に目が向けられる。それは、ファウストゥス博士XXXVII章に不気味に登場するユダヤ人音楽マネージャーフランス人フィッテルベルクの姿でもある。なにもぶどう酒の世界やヤクザな芸術世界のみならず、科学文化の世界での「見えぬ神の秩序」を描き出している。


写真:天の窓から手が出てきそうな図



参照:
„Erscheinungen konservativer Revolution im Doktor Faustus“
(Harald Jacobs DaF-Werkstatt)
„Im Himmel keine faulen Kompromisse mehr“ von Lorenz Jäger,
„Von Berlin-Lichterfelde nach New York“ von Henning Ritter,
FAZ vom 28.November 2007
呵責・容赦無い保守主義 [ 文学・思想 ] / 2007-11-19
肉体化の究極の言語化 [ 文学・思想 ] / 2007-11-25
硬い皮膚感覚の世界観 [ 文学・思想 ] / 2007-11-15
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by pfaelzerwein | 2007-12-02 00:00 | 文学・思想 | Trackback
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