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牛褒め上手の子を褒める

子供のお客さんがあった。一歳十か月である。生後暫らくして、母親から電話ではその様子を聞いていた。大きな青い目をした男の子とは聞いていたが、父親をよく知らないので、イメージは湧き難かった。

目を手で隠しながら初体面する表情からして、完全にこちらの予想を上回った人物像を示してくれて、聞くところ玄関を入るなり「わあ、すごい家だ」と叫んで子供にすればふわふわな絨毯にご満悦だったらしい。

こちらと言えば、出産のお祝いもしていないので、昨晩からあれやこれやと幾ら包んでやれば良いかなと小さな金にも思案のし通しで、夜も眠れなかったのである。生来のけちな性分に幾らか気前良くみせたいという色気があって、「これだけのワインを我慢すればよいか」などと思いに伏せってしまう人間なのである。

兎に角、機嫌の良い表情の豊かな男の子で、これまた少し無理して買った「牛裏出し革ソファー」の大きな方に母親から離れて座るなり、「これはいいや」と言うのである。

こちらは、子供も居なくあまり子供好きではなくとも、大抵は母親の手前、落語の「子褒め」宜しく、褒めて点数を稼ぐのであるが、何もかも子供に先越されてしまった。こちらは古典の「子褒め」で挑んだのだが、子供の方はこれまた上方落語の「牛褒め」で返したことになる。

こうなると、こちらは相好を崩れっぱなしのみならず財布の紐も緩みっぱなしである。封筒に入れた札を数えながら渡すと、母親は「それはいけません」と固辞するが、子供にやるのだからと言うと、母親は「貰う?」と子供に尋ね、これまた子供は「うん」とはきはきと答える。

封筒の中身を見て「お金」と言い、しっかり握って最後まで放さない。ふと時計を見ると時給としては、こちらと変わらない稼ぎをしている。そもそも、こましゃくれた子供は嫌いで、そのようなときはいつも親馬鹿の顔を見ながら子供の将来を憂うのだが、今回はこちらが人間的に完全に劣っている感じで気遅れしてしまった。

大枚叩いたマウスまで褒められそうになったので、流石にこちらも早めに警戒して「コンピュータープロフェッショナル」と持ち上げておいたが、道路を通るトラックの音に耳をそば立たせ「トラック」と言い当てるのを見ているとまたまた居心地が悪くなる。

ポーランド語とのバイリンガルであるようだが、標準ドイツ語を覚える時期で耳からどんどんと入ってきているようで最近は抽象言語「恐れ」という言葉を覚えて好んで使っているらしい。

先日のブッレッツェルを勧めると、嬉しそうにミニカー共々持込のゴム菓子「ハリボ」と皿に乗せて、それも生え揃って強そうな前歯で噛み切り歯脆さを楽しむ。ホワイトハウスのいい歳とった息子よりも余程賢いに違いない。それに、屑をソファーの上にこぼすようなことはしない見事さなのである。

母親も妊娠を知らずにつわりを感じたそのときを覚えているのだが、隣町からやってくる間に、どこかで時間が飛んでしまったことがあって、その感覚の連続性と非連続性を床の上に座って話したことを思い出した。因みに父親は、昨年十月ごろから独立して、ソーラーシステムを扱っているらしい。
by pfaelzerwein | 2008-02-12 05:01 | 生活 | Trackback
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