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制御される雪煙の映像

アーノルト・ファンクの映像は研究対象として実に面白い。この山岳映画の父が必ずしも優れた映画を撮ってばかりいる訳でもないのは、映画評論の草分けであるジークフリート・クラカウワーによって批判されているのを読むまでもない。

YOUTUBEにて公開されているもっとも有名なスキー映画の古典「白い雪煙」はやはり良かった。登場するのは初期のスポーツ映画にて見事な登山テクニックを披露したハーネス・シュナイダーの現地スキー学校長であり、この創始者が合衆国に移住した後も現在も全く同じようにザンクトアントンのスキー学校は同じように世界から熱心な愛好家を呼び寄せている。高度な運動能力を持ったレニ・リーフェンシュタ-ルの生徒役と先生役ルディ・マットをはじめとする当時超一流のスキーヤーの共演となっている。

筋は、ベルリンから来た女性がジャンプ競技に魅せられて、学校に入り本格的にアルペンスキーを始めて、校長先生とスキーを履いた狐狩りの狐となって逃げ回る話だけなのだが、ハンブルクから来た家具屋のスキー場見習いなどが狂言回しとなって、スキーの楽しさ更にスポーツの喜び満載の映像となっている。作曲家パウル・デッソウの音楽に基本コンセプトが良く表れているのはパウル・ヒンデミットが「山との戦いにて」で重要な仕事をなしていたのと双璧である。

この映画においては「狐狩り」が後半のハイライトを築くのであるが、予想していたよりも「雪煙」などが示す「耽美の美学」から程遠い視点でカメラが廻っているのが素晴らしい。あのクライネマッターホルンの映像で見せた輝く光と雲の臨場感がここに求められていないのは、それがこのアールベルクの二千メートルばかりの山には無い事を如実に語らせているのである。

その代わりにここには、今日も残っているザンクト・アントンやザンクト・クリストフもしくはシュトューベンの谷などの風情が上手に表現されているのである。この自然科学者であるアーノルト・ファンク博士の偽りのない視点に共感できる映画である。それと同じぐらいレニ・リーフェンシュタールの素晴らしい肉体制御にとても感心しながら、それに反比例する彼女の知的制御の欠落に忸怩たる思いを隠せないのである。



参照:
Der Weisse Rausch 1/10 (1931) (YOUTUBE)
Der weisse Rausch, Neue Wunder des Schneeschuhs (filmportal.de)
Paul Hindemith Filmmusik "Im Kampf mit dem Berg" (YOUTUBE)
世界を雪崩で洗い落とす 2008-10-25 | マスメディア批評
by pfaelzerwein | 2009-08-24 02:25 | アウトドーア・環境 | Trackback
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