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これで結構真剣勝負なのですよ

木曜日にワインを追加注文して来た。二週間前に試飲して送ったものが気に入られたとかで追加注文となったのである。しかし、そのようなリストにも載せていない良いワインが今でも売れ残っていると思うのが端から間違いである。

月末までと私自身が確かめてあったが危ないと思いながら回収した2009年産ソーヴィニオン・ブランである。2007年まではメーヴェンピックに下ろしていたので、その存在すら知らなかったが、偶々通っていたので親切に奨めて貰ったのであった。それから毎年欠かさずに購入している。もし一年でも欠けたら夏が寂しくて仕方ないだろう。

なるほどリースリングと違って飲み慣れていないと、その価値観も全く異なるのでその価格と価値に関して判断するのは難しいが、だからこそ売り子は頑張って英語でその夏の楽しみ方までを教えて呉れていたのだった ― まあ、それも私の教育の賜物か?

試飲買い付けは、玄人ならもちろんであるが愛好家にとってもこのように結構真剣勝負なのである。市場原理が働いて一本十ユーロと大変高くなったがその生産量と相俟って一向に人気の落ちるどころか大量に購入する人が増えて来ている。強気の商売をされるとこちらも負けていられないで必至に手に入れようとする。そうした樽出しでありながら殆どアングラ市場があるからこそ、そのようなものを入手出来無い殆どの人のために大きな市場で商売できる商品にも波及効果として値がついてくるのである。

さて今年は甘みが酸に勝っていたソービニオン・ブランは夏の食事を楽しみながら改めて講評するとして、素晴らしい2009年産のリースリングについて逸早く報告しておこう。

二週間前の試飲ではゲオルク・モスバッハー醸造所には辛口はリッター瓶と新規獲得した地所ヴァッヘンハイマー・ケーニヒスヴィンゲルトしかなかった。そして今回とれとれのつまり瓶詰めしてまだ箱詰めされていない状態のリースリング二種を試飲出来た。

一つはフォルスト・シュティフトであり、一つはダイデスハイマー・モイズヘーレであった。特に後者は、砥石の汁のような粉っぽいミナラル質と強烈な酸のアンバランスが通人向けの味となっていて、通常の愛好家には敷居の高い地所からの本格的辛口リースリングである。だから私自身この地所のワインを自らの蔵に貯めたことすらないのである。そして2009年のこのリースリングの馴染み易さは一体どうしたことなのか?!

その原因については自分なりに考えている。一つは今年の特徴である酸の質感である。それは細かく、昨年度2008年のそれのような押し付けがまさとは対極にある引っ込み思案の酸の質が効を奏して最初のアタックを柔らかくしている。つまり本来の細やか過ぎるほどのミネラル風味の良いお膳立てになっているのだ。その反面、一種のカテキンのような苦味があるのだが、それが今年は酸と相俟ってウーロン茶のように非常に気持ち良いこなれたものとなっている。アルコールが12.5%があるとは全く感じられずに簡単に一本開けても全く酔わない、残らない。考えられないほど素晴らしい。少なくともこのように新鮮なうちは酸とバランスをとっている限りはとても素晴らしい。そして、このリースリングにおける酸はまるで「ひっそりと隠れる破傷風菌のように」分からないぐらいにとても長く後を引いている。

例えばそれを先日購入して満足したケーニックスヴィンゲルトと比較すると、その酸の伸びが異なるので、どうしても短いほうに苦味を感じる結果となっている。殆ど同じ価格となると間違いなくダイデスハイマーの方を選ぶだろう。

今年の傾向をここから更に占うと、この十年間で最も繊細なリースリングとなりそうで、酸・ミネラル・苦味・糖が綺麗にバランスをとると途轍もないビロードのような上質のワインである。不明な要素は、この酸の将来的な変化であって、現時点では2007年産の中抜けしたようなそれよりも遥かに上質なものとなっている。ここまで書くと、通人ならばどこの地所のどのリースリングが期待出来るか想像出来るだろう。

先ずは、今年は九ユーロの辛口リースリングは熾烈な競争である。そのなかでゲオルク・モスバッハーのそれはすくなくとも一年以内の消費に関しては全く他の名門醸造所に引けを取らないどころかCPで上回っている。

婿様が挨拶に来たので聞いてみた。

「昨年のハーネンビュールはちょっと違ったけど、特別な酵母とかなにかした?」

「そんなことはない。葡萄が違うだけなんだ」と仰る。そこに嘘はないとみた。「あれは斜面上部で冷たい風に洗われるから」との説明である。

「2009年度も味見したから間違いないね」と褒めておいたが、結局はああした小さな区画でそのテロアールを出すリースリングの醸造に専念する内に、その出し方が非常にシャープになってきたことが窺えた。

職人の腕の上げ方は、試行錯誤の内に己が認めることでそれがまた次ぎへの探求となる職人気質のそれでしかない。その意味から、2007年・2008年・2009年は試行錯誤にとても恵まれた三年であったに違いない。同じく挨拶に来た先代も満足そうである。

繰り返すようだが、ここ数年のドイツワインの進展は目覚しいものがある。当然ながらその基本にはVDPの協会の基本姿勢の確立と一度決まったレギュレーションの中で詰めて行く合理的な仕事振りがその背景にある事はいうまでも無い。そして2009年産は天然酵母醸造へも弾みがつきそうで、口やかましい客として、そうしたフィードバックが品質向上・市場拡大への一助となれればと思っている。



参照:
十時には飲んで、金曜日の一日 2010-04-03 | 試飲百景
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手に負えない大馬鹿野郎達 2009-05-17 | 試飲百景
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岩との戦い酸との戦い 2009-05-29 | 試飲百景
by pfaelzerwein | 2010-04-11 01:05 | 試飲百景 | Trackback
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