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あまり愛されていない地域文化

モーゼル中流域架橋工事反対署名はあまり集まっていない。如何にモーゼル地域への共感が薄いか、そのモーゼルヴァインの人気がドイツではないかを物語っているようで驚いている。

厳しいい方をすれば自業自得の結果ともいえるだろうが、それだからこそ余計に、掛け替えの無い貴重な地方文化を絶やしてはいけないと考える。FAZ新聞の文化欄に「二十分対二千年間」と題した記事が出ている。

要するに二十分の時間短縮のために二千年間の文化遺産を絶やして良いのかという問いかけである。CGの写真の下に、「この想像図を見て嘗て住んでいたローマ人の水道を考える者は誤まりである。古代人は必要に迫られて巨大なものを建設したが、毎分毎をコストと見做すようになったのは現代人がはじめてである」。なるほどこれは1960年代の先進工業国の政治が行なったようなプロジェクトであり、その考え方を思い出して我々はタイムスリップしたような気持ちになるであろう。

昨年の夏と秋にこのアウトバーンの計画地域を走行する機会があった。一度目は、ライン河からライアンエアーが利用するとても不便な飛行場フランクフルト・ハーンへのアプローチから中部ラインへ抜けたときであり、二度目は中部モーゼルのJJプリュム醸造所を訪れるアプローチ、そしてそこからナーへ川へと向う途上である。

ドイツの郊外の彼方此方に見られる風景であるが、幹線道路が拡張されてアウトバーン化された部分と拡張工事中の場所を数多く通った。それが繋がるところがベネルクス三国であり、ラインマイン地域から一気に抜け、その間の地域の経済効果を高めるモーゼルの高架橋を走り抜けるこの高速道路計画である。

アウトバーンが繋がれば、渋滞は減り、物資輸送や人の移動性が格段に向上するので、経済効果だけでなく総合的には環境にも良い。それどころかあの地域の道路は非常に危険であり、無駄な事故も防げるので、建設費が算出出来る限り決して悪いことなどはないのである。

そして高架橋が出来ようが、御土産を漁る観光客などにはそれほど目障りにもならない。寧ろ一寸立ち寄るには足の便が良くなり、その経済的効果は失われない。

昨年には、既に架橋の足場のコンクリートで固めているような地盤工事をまさに谷の上の縁で見かけた。その影響が、ワイン栽培に与える影響は殆ど無いに等しいだろう。しかし、ワイン文化というのは決してそれだけのものではないのだ。

葡萄の葉は、高速道路からの塵に汚れ、元来の河からの水蒸気でべっとりと汚れるだろう。もちろん摘み取り前の葡萄が今までのように容易に味見出来るとは思わない。ワインを購入する海外のお客さんは、そんなことなどに気がつかないで楽しんでいれば良いのだが、振動と騒音に曝された葡萄のストレスを最も感じるのは生産者そのものに違いない。その生産者自体のストレスは将来への希望を失わせる。要するにそのワイン文化は何時か必ず崩壊する。

モーゼル流域最高のワイン地所がその文化的価値を失おうとしているのに異議を唱える者は決して多くない。如何にモーゼルのワインなどがその閉鎖的な谷を一歩出ると愛されていないかがこれで良く分かる。


追伸:先日JJプリュムの最も単純な2007年産グーツリースリングを飲んだが、試飲の時に問題であった酵母臭は完全に消えていた。そうなると本当に素晴らしいリースリングで、甘口とは言いながらスレートと酸の三位一体のバランスがとれていて決して甘さを感じさせないのである。流石、地方名産品である。




参照:
モーゼルの葡萄畑と高架橋 (モーゼルだより)
2009年 ドイツ・モーゼル作柄レポート(営業1課・椎川和恵) (INABA WEIN BLOG)
Zwanzig Minuten gegen zweitausend Jahre, Dieter Bartetzko, FAZ vom 21.04.2010
Petition: Bundesstraßen - Baustopp für den so genannten Hochmoselübergang (Deutscher Bundestag)
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by pfaelzerwein | 2010-04-24 02:30 | ワイン | Trackback
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