人気ブログランキング | 話題のタグを見る

現代の音環境への認知力

フランクフルト空港はストライキなど最近なにかと話題となっている。我々が興味あるのは、新滑走路絡みでの、航空機の騒音の大きさに準じた空港使用料の設定であろう。

アイデアとしてはとてもよいと思うが、他の空港も同じような基準を設けなければ航空業界への大きな影響はないだろう。チァイナエアーなどは、欧州空域でのCO2規制で、サンクションとしてA380 の注文をキャンセルしたのと同じように、フランクフルトに飛ばさないことで圧力をかける。

それを受けてルフトハンザなどは、既に小ざかしいボーイング737のエンジンカヴァーのアコースティックパネルズを取替え、離着陸で2.4dbの騒音低下の効果を得た。またA320シリーズでは主翼下のタンク油圧調整に渦調整装置を取り付けて離陸時の騒音を0.6から2.3db下げている。この少ない対数表示のデシベルの削減によってスタートバーンにおける騒音を85dbに抑えることが出来ると言うのである。

騒音を下げることは、一般的には環境問題の解決であるが、そうした住民の生活環境の向上であると同時に、音への感受性を鈍らさないための基本的なことなのである。感受性とは、なにも高度な芸術的な表現まで行かなくとも、人類の基本的な五感に、つまり認知にかかわることなのである。基本的人権とかそうした主張以前の根源的なものである。

先日購入したCDエディションの中で、やはりハインリッヒ・シュッツの音楽はその和声のあり方からしてブルックナーなどに通じる独自性が見事である。そしてその他のパッヘルベルのカノンも手馴れたもので素晴らしいが、恐らく知ることもなかったようなラッススの弟子のレヒナーなどの美学的時代背景も良く分り、こうしたエディションのなによりもの利点である。なるほど廉価版なのでブックレットには情報はないので、個々の作曲家や曲については必要ならば逐一調べなければいけないが、現在においてはネットで十分な情報も楽譜も容易に無料で得ることが出来るので全く問題ないであろう。

騒音の中での反射的な拒絶・閉鎖とは丁度反対に、こうした積極的な聴姿勢によって初めて開かれる音の環境が存在しており、嘗てCD導入期に問題となっていたような受身の聴環境というのはこうした聴習慣で完全に打破できるだろう。そうした目的に叶うように、個々の良く出来たCDのプログラムに加えて、全体もアンソロージーとして素晴らしく文化的な制作となっている。

そもそも大バッハの音楽の本質的な価値や趣味を理解しようと思えばその一族の音楽だけでなくこうしたそれらを取り巻く環境を実感しないことには分らない。それは、所謂西洋近代音楽への視点でもあって、現代人の音環境の基礎にあるものなのだ。



参照:
屋根裏のジェットストリーム 2012-02-26 | テクニック
文学としてのジャーナリズム 2012-01-04 | マスメディア批評
脱思想・脱原発・脱体制 2008-01-29 | 歴史・時事
無駄が聞こえない環境作り 2011-09-07 | テクニック
タービンが力強く回るところ 2011-07-04 | テクニック
福袋CDエディション 2012-02-28 | 暦
by pfaelzerwein | 2012-03-10 17:06 | | Trackback
<< 先進工業国初の原発零? 効率よく働かせる保険 >>