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グルリット家の負の遺産

ミュンヘンのアパートから発見された名画の件はまだまだ後を引きそうだ。なによりも発見された2011年から今までその概要すら公表されていなかったこと、そして未だに1500点と言われるそのカタログすら発表されていないことなど様々な憶測をよんでいる。後者は、未知の絵画も多く含まれていることと必ずしもキャムバスものだけでなくて紙に書かれたデッサンものなども含まれているということで理解できる。前者はリスト作りの調査に手間取っているとも言われるが、その全容は正式に起訴されるまでは公表されないようだ。

最新の情報では、所謂退廃芸術として法の名のもとに召集された作品群以外にもデュラーやビーダーマイヤーのシュピッツヴェークなどの多くの作品が含まれていることから必ずしもナチの法の下に押収された作品だけでなく、パリのローゼンベルクコレクションからのマティスなども含まれることから、海外での強奪品も含めて多様多種であるということだ。内200点ほどが捜索願が出ているものと言われる。長い期間に亘って集められた父親でヒットラーの総統美術館芸術管理番であったヒルデブラント・グルリットの収集品である。

法的には、少なくともドイツ帝国の美術館などから撤収されたそれらが我々の現在の美術館に返還されることは無いようで、その根拠は合法的に美術館の持ち主であった第三帝国が放棄したものであるからと言う。しかし、その他の個人所有のものは捜査願いが出ていて、法的に証明できるものに関しては返還の可能性があるという - そしてユダヤ人の手にそれが戻されるのである。

さて事の起こりは2010年にチュリッヒに向けてスイスに入国した故人コルネウス・グルリットが国境線で引っかかったことから、何時ものように脱税容疑で捜査が入ったことで発覚したようだ。そして、ゴミや食い散らしたアパートメントの居間から1500点に及ぶ一千億円相当と言われる絵画群が無事に徴収された。その出本は、父親がドレスデンの空襲で全てを失ったと虚言したナチに関与した美術品群であるようだ。

ヒルデブラントは、必ずしもただ一人の総統美術品管理番ではなかったようだが、1938年にヨゼフ・ゲッベレスに美術品の海外での売却を依頼されるなどかなり重要な任務を担っていたことは間違いない。ユダヤ人でありながらナチの党員であったというのが全てを象徴していると思われるが、それを利用するナチの体質と言うものが改めて浮き彫りになる。正しく彼らは私利私欲のみならずそうしたユダヤ人の体質やコネクションを利用して高笑いしていたに違いないのである。そもそも国家社会主義労働党と名乗る連中が前衛芸術を隈なく駆逐していく態度は似非保守主義者などとの近似性が見受けられるところである。今回の公表への時間のずれそのものがそうしたオークションハウスや美術商網などのユダヤコネクションとの関係もあって躊躇したように感じられても仕方がない。

今回のように今頃になって眠っていた財宝が現れるのも決して珍しいことではないが、このグルリットの残した絵画の場合は、ややもするとイスラエルから狙われるようなものであったかもしれず、死ぬまで秘密にしていたのも頷ける。とても興味深いのは、今回の徴収があった後も話題となったマックス・ベックマンの「ライオン使い」がコルネリウス・グルリットが持ち込んだレムペルツのオークションに掛けられて七十二万ユーロで落とされていることで、他にも隠しアジトがあるのではないかと疑われていることである。



参照:
Marc, Matisse, Picasso, Dürer, Julia Voss, FAZ vom 5.11.2013
ミュンヘン美術品発見事件とグルリット『ヴォツェック』 (緑の錨)
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