百年後の現在の社会の構造一つにはドイツェロマンティークなどがあり、一つにはモネなどへの溺愛やフェルメール騒動などを思い出してしまうのである。西洋音楽においては当然のことながらその内容ということに言及が及ぶことになる。その内容たるが言葉でなく音楽で表現されていることで余計に難しくなる。しかしそこではどうしても表現されているらしき内容の充実度が問われるだけで、内容の精査まではなかなか言及されることがない。それは音楽創作の意匠や構造にまで言及が及ばないからである ― 職人的な技の充実度とその創作動機と言い換えることが出来る。 しかしそうした状況はなにも極東の日本だけに関わらず、本国ドイツでもありえるのだ。先日の「ルル」上演の初日の新聞評がその典型だった。そこでは一切音楽的な構造や内容に関しては一切触れられていない。正直高級紙フランクフルターアルゲマイネ新聞の音楽批評の質は二人の女性の評論家で大分落ちた言わなければならない。 なるほどその新演出に関しては賛否が分かれただろうが、その分岐点がなにであったかを明らかにしなければ専門的な評論とはいえないのだ。たとえ、記事で「そこには光を放ちフレンドリーなキリル・ペトレンコがいて、強烈に熱を放つ。ブーレーズの指揮で嘗て一度も響いたことがない透明で色彩に溢れたルルの音楽が響き渡り、各々の声部は室内楽的に分離されて強くはめ込まれているように鳴り響いた。」と、美辞麗句を並べて感想を述べてどうしようというのか? - まるでワインにおいて、なになにのフルーツの味がして、これほどに透明感を湛えたワインは知らないというのに似ている。 そうした報告はなるほどジャーナリズムなのかもしれないが、ラディオ中継されていることでもあり、なにも評論家からそのような感想を聞かなくても、聞き上手の人たちは全く同じ感想を持つ筈である。対位法的な扱いを示唆したりはしているのだが、その演出への評論と同じように、この作品の本質や音楽については一切語っていないのである。 そうした扱いが出来ない理由には、ベートーヴェンに始まるようなロマン派音楽の文学的なアナリーゼには熟知していても、こうした専門家と呼ばれる人たちでさえが、十二音の書法の内容を文学的に語る方法をまだ習得してないからに違いない。それがここでの新演出への批評の落ち度となっていることにも気がついていない。そのあまりにも退屈とされる演出こそは、かなり細かくその構造的な内容を具象化しており、先に触れた当時の社会学的な思索への構造を原作から読み取っていくものであり、まさしくそのように作曲されているのである。 例えば、印象主義・表現主義の範疇から捉えるとパトリース・シェローは間奏曲において上手にその月夜の青い空を印象主義から表現主義へをオヴァーラップさせてブリッジのように使っているが、その音楽が最終幕で調性の色調を強く押し出してくることと無関係ではないのである。なるほどシェローの演出はその意味からはとても理に適ったものであったことは確かであるが、音楽の構造とその構造によってはじめて生じる内的な意味付け ― 十二音における対位法のベルク流の扱いのオヴァーラップ効果 ― はピエール・ブーレーズのせかせかした指揮同様にまるでそれを恐れるかのように敢えて踏み込まないようになっていたのである。 そうした音楽的な構造やその意味することが音楽的な教養として強い意味を一般社会にも与えるようになるには、百年ほど前の文化が歴史的に消化されるようになって初めて可能になるものなのだろう。 一般社会といえば、バイロイトで二年間ジークフリートを歌ったライアンが、三年目は契約しないとあった。カストルフ演出で演出家の次に多くブーイングを浴びていた歌手であるが、あの甘えたの雰囲気はとてもその演出で目立っていて、演出全体にとても肯定的なキャスティングであったろう ― 眼鏡のミーメほどの芸ではなかったが。新しいキャスティングは正確に確りと歌うのかもしれないが、あれと同じ役作りは不可能だろう。三年目で映像が記録される上演は、先の二年とはジャーマンウィングス航空機事故死亡者などを含めて可也キャスティングに移動があるようだ。 参照: 耳を疑い、目を見張る 2015-05-27 | 音 パンチの効いた破壊力 2015-03-08 | 文化一般
by pfaelzerwein
| 2015-06-03 21:03
| 音
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