TV灯入れ式を取り止めた訳
今年のノイヤースコンツェルトには端から触れる必要はないだろう。電源タップを取り換えた時にTVの差し込みに気が付いて、今年は年に一回のTV点灯式は行わないことに決心した。それよりもやるならばネットで受信して、モニターで流す方が音響だけでなく視覚的にも臨場感が出るかとも思ったからだ。特にオーストリアの国最大のインタナーショナルな催しなのでネット転送技術的にも何か経験になるかとも思った。要するに中継内容よりも技術的な枠組みに興味がある。
その若い指揮者と彼の管弦楽団の演奏は旧年中のベルリンでの芸術際の生中継で観て、なるほどこうしたものに南米や極東を中心の世界市場があって、音楽芸術とは全く異なるものであることが分かったので、あまりにも商業的なストーリーものには気分が悪くなったのだ。それに尽きる。あんなもので商売をしているから国の売り物の座付き管弦楽団が使い物にならなくなってくるのである。 二三週間もするとシカゴ交響楽団でムソルグスキーのプログラムのコンサートに出かけるので、一連のロシアもの続きで少し勉強しなければいけない。ショスターコーヴィッチからロシア音楽の歴史的な関係にも関心が向かった。そして四月にはチィコフスキーのプログラムがある。 キリル・ペトレンコ指揮でクリスマス前に復活祭のと同じプログラムがRAIで演奏放送されていたのを聞き逃した。その前にはハフナー交響曲だけはBMWミュンヘン支店慈善コンサートでも演奏している。小澤征爾がオペラを和訳して日本で練習してから本番に臨んだように、ここでも些か雑なトリノの放送管弦楽団がいつも練習台になっているようである。2013年のバイロイト登場前にもそこで全曲を演奏していて、今回偶々その「ラインの黄金」全曲をDL出来た。 VIDEOでは練習風景か何かわからない断片がいくつか存在するが、全曲乍らなぜか音が悪い。放送録音のようなマイクロフォン録りにも思えるが、まるでフルトヴェングラーがローマで公開録音したもののような音質である。録音技術的にも横着だが演奏も勢いはあっても放送交響楽団とは思えぬ演奏ぶりで、指揮者の息遣いと共に勢いで突っ走っている。ある種の共通性があの2013年のバイロイトでの演奏にもあるようで、屡々各奏者のバランスがとんでもないことになるのは管弦楽団のアンサムブル技術なのだろう。どうしても各々のパートを明白にクリアに演奏しようと思うと管などはダイナミックスをコントロール出来なくなるのかもしれない。 今年もこの指揮者の演奏を何回も聞くだろうが、もう少し批判的に聞いてやろうとは思うのだが、2010年フランクフルトでの「トスカ」上演の断片を聞いたり、歌手の話を聞いたりすると ― つまり歌手も皆共々とても細部までにも留意させられて扱かれているのだが、皆苦笑いしながらも「楽譜の読み方」に目を開かされて、それでもとてもジェントルな指揮者だと心酔している ―、こうしてプロフェッショナルな音楽家が必死に指揮者の細かな指摘に応えようとしているのを見るととてもバランスが悪いだとか簡単に否定できないのである。だからトリノでのあのような演奏でも熱狂的に受け入れられているのだろう ― 聴衆はどうしてもトスカニーニを重ね合わせるのではなかろうか。RAIの放送管弦楽団とベルリンのフィルハーモニカ―が同じように演奏できないことぐらいは皆知っているからである。 ネットを見ていると10月に再演された「マイスタージンガー」新演出もはじめはヨーナス・カウフマンが出ることになっていたようだがキャンセルしたと書いてあった。また当初カメラが入る予定になっていた七月終わりのそれを観ての批評記事もあって、「この演出では流石にあの事件直後のミュンヘンでPVは出来ない」とあってはっとした。全てに敗れたベックメッサーが皆に愛されているハンス・ザックスを撃ち殺そうとして、結局は自害する終幕のことである。台本にはないがまさにそうした事象がミュンヘン市北部で起きたところだった。これを偶然とか予言とかとは言わない。少なくとも演出の本質はまさにそこにあったのだ。日本風に言えば「よき昭和と思われていたような街の人々の繋がりが薄れてシャッター通りになった」、そこがこの演出の舞台であったのだ。そしてその関連性に気が付かずにいた。また余談であるが再上演の時の舞台横のロージュでは、バイロイト音楽祭から一昨年駆逐されたパスキエー女史が招かれて観劇していたようだ。 音楽劇場には「演出など」というような意見もある。そもそも私などはブーレーズと同じでオペラ劇場などは放火して仕舞えと思わないではないが、音楽劇場の可能性は今後とも否定できない。そしてそれは決して商業主義的なものではないことを改めて先日のショスタコーヴィッチの作品の演出に纏わり演出家ハリー・クッパーが示してくれた。更に申せばあの手の劇場はミュンヘンのそれではなくベルリンのそれなのである。社民党、緑の党、左翼党の左翼政権のベルリン市の現在の姿こそが偽りもなくこうした劇場の源であり、シュツッツガルトにおいても大成功している演出家フランク・カストルフなどが現在のベルリンを体現しているのである。しかしミュンヘンは劇場的にも異なる。同じくシラー劇場のマンハイムも異なって当然であり、そこには紛れもなく現実の生活空間と劇場空間とのディアローグが存在するのである。何回も繰り返すことになるが、皆共産圏出身の人たちなのだ。そしてその人たちが西側で過ごした私たちの視座に影響を及ぼす。これはベルリン独自の東ドイツ文化だけでなくて、そうしたプロシアから遠く離れた我々の社会文化であるということである。東独出身のメルケル首相が世界の権力者であることを見逃してはいけないということである。なにも彼ら彼女らは、全体主義の下で虐げられた旧共産圏出身の人材ということだけではなく、明らかに我々西側で暮らした人々とは全く異なる教育を受けて異なった視座を与えてるということを肝に銘ずるべきなのである。そうした文化的な背景がそれらを先取りする芸術にも深く結びついているのは至極当然のことである。なぜ公共の劇場が、音楽劇場が必要なのかの明白な回答でもあろう。娯楽など本当にどうでもよいことなのである。 参照: 雀百までの事始め 2016-01-04 | 暦 ひしひしと積み重ねの喜びを 2013-01-02 | 文化一般 「ドイツ生まれのドイツ人」 2016-07-25 | 歴史・時事
by pfaelzerwein
| 2017-01-01 21:24
| 暦
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