キリル・ペトレンコのキャンセルキャンセル理由は「いつもの健康上の理由」であるが、実際のところは分からない。代役にルーマニアの指揮者を立てているところが若干気になるが、日程的にリハーサルへの前乗り直前の判断だと想像する。 指揮者は歌手などとは異なってそれほどキャンセルすることはないのだが、幻と呼ばれたムラヴィンスキーとか、チェリビダッケとかを彷彿とさせるのが面白い。お陰で、今回もいつものように「家庭交響曲」も余分に勉強させて貰い、この指揮者の譜読みがなければ一生涯ここまでは至らなかったであろう次元まで音楽のお勉強をさせて貰って感謝に堪えないのである。 実際にミュンヘンの音楽監督の日程を見ると、新制作「タンホイザー」の五回目が終わってから一週間経っており、次の指揮公演は7月2日の「影の無い女」のようで、その前に関連性のある「家庭交響曲」で客演するというのは理に適っている。但しもう一つが協奏曲伴奏とは言いながらモーツァルトの二つ目の短調協奏曲K.491で、一週間は別途準備が必要だっただろうか ― ここで言及すのもおこがましいが、このハ短調の協奏曲も読み込むと中々簡単な伴奏では済まない。 「タンホイザー」の演奏指揮を聞いていても可成り全身全霊を傾けている感じは窺われていて ― その間にマーラーの交響曲などの指揮があった ―、更に世界最高の管弦楽団と精一杯の演奏を繰り広げるのは客観的に厳しいようにも感じていたのは事実である。要するにこの指揮者は、他のスター指揮者がするような遣っ付け仕事をしないのが特徴で、そこが魅力であり、それだけに一度一度の公演に強い意志が感じられるのである。 因って、2014年12月のベルリンでのドタキャンをズル休みと呼んだのも、そのキャラクターからして、首の健康上の問題というよりも、その直後の「影の無い女」公演での指揮ぶりからしても、寧ろマーラー六番の準備が充分で無かったというのが個人的な観測である。 この世界最高の交響楽団には2013年にデビューしており、ショスタコーヴィッチ作ピアノ協奏曲と「シェーラザード」を指揮している。後者はyoutubeにベルリンのシュターツカペレとの美しい中継録音がある。今回の公演も勿論客演指揮であるからデビュー公演と比較してどれほどの成功を収めたかは分からなく、少なくとも売券状況からしてもそれほど注目されていなかった。 個人的にも昨年から気になっていたのだが躊躇していて、ワイン祭りの喧騒を逃れるために近々に決断したのだった。しかし「家庭交響曲」に関しては交響楽団のそのアンサムブル上の特性から可成り期待できるものだと分かり、胸をときめかしていたのである。その反面、この管弦楽団のその特性を満遍なく客演指揮で披露するとなるとある意味大変なことだとも思った。それがどうしても聞いておかないといけないと思わせた理由だった。 何代かのベルリンの監督がヴィーンの座付き管弦楽団の指揮を恒例としていたようには、次期監督においてはそうはならず、ヴィーンとの関係は限定的になると予想されるなかで、ベルリンのフィルハーモニカ―の競争相手であるアムステルダムの交響楽団との関係は、芸術・政治的にも注目されたのだった。先週末には、その一方でテューリンゲンでのビュローピアノコンクールの名誉理事になることが伝えられていた。 こうしてキャンセルとなると、夢想してとても残念にも思うが、嘗てのルツェルンでアバド指揮のプログラム変更時とは全く異なり ― あの時の怒り心頭は今からすると自分自身でも驚きだが ―、今回は旅行前に連絡があり、部屋も完全キャンセル可能なので、旅行に出かけていたならば300ユーロ越の消費となったが、これで入場料だけの無駄な出費となった。入場券は誰かが使ってくれない限りただの紙切れとなるが仕方がない ― これもオペラ公演などで高額券の注文を押し止める理由である。それにしても無駄になる美術館前売り券などをまだ購入していなくてよかった。 しかし少なくとも音楽監督としてのミュンヘンのオペラでの公務が最優先であり、その次に同様に何ヵ月もの準備を経て重要視していたのがベルリンとバーデンバーデンでのコンサーツであったのはこれでまた証明されたことになるだろう。恐らく今秋の東京公演に向けても然るべき万全の準備は怠らないだろう。 これで、もし自宅に滞在していてワイン祭りの喧騒に耐えたとしても悶々とした気持ちは湧かなくなる。騒がしければ騒がしいでそれはそれで片づけものが捗るかもしれない。兎に角、気温が予想ほど上がらずに気象が不安定になることを願っている。 参照: あれこれ存立危機事態 2015-07-14 | 歴史・時事 竹取物語の近代的な読解 2014-12-31 | 文化一般 古の文化の深みと味わい 2014-12-24 | 文化一般 ワイン祭りを避けるついで 2017-06-09 | 生活 ワイン祭り初日を終えて 2017-06-11 | 生活 何もかも高くつく 2017-06-10 | 雑感
by pfaelzerwein
| 2017-06-13 04:22
| 雑感
|
Trackback
|
カテゴリ
全体 ワイン 暦 料理 試飲百景 アウトドーア・環境 雑感 文化一般 音 生活 女 歴史・時事 文学・思想 INDEX マスメディア批評 SNS・BLOG研究 テクニック その他アルコール ワールドカップ 数学・自然科学 未分類 BOOK MARK
Wein, Weib und Gesang -
ワイン、女 そして歌 ― 同名の本サイト 以前の記事
2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 フォロー中のブログ
生きる詩 「断想」 _sin... Rhymes Of An... やっとかめ どっとこむ 美術と自然と教育と 死して屍拾う者無し 小林恭子の英国メディア・... みなと横浜、音楽三昧 ベ... 現象学 便所の落書き 庭は夏の日ざかり Romantic Exp... BOSSの言霊 ラジカル 武士道!【投資... the Sky over... ベルリン中央駅 考える葦笛 デジタルタブローとは。 クララの森・少女愛惜 Weingau --- ... 我楽亭ハリト Warat... Yamyam町一丁目 風のたより 最新のコメント
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
スポーツクライミング
ビュルクリン・ヴォルフ醸造所
レープホルツ醸造所
フォン・ブール醸造所
ペッヒシュタイン
ピノノワール
シュペートブルグンダー
石切り場
ダイデスハイム
シェーンレーバー醸造所
バッサーマン・ヨルダン醸造所
グレーフェンベルク
トレイルランニングシューズ
ランゲンモルゲン
緑の党
床屋
グランクリュ
ゼーガー醸造所
ビュルガーガルテン
レッドポイント
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||