ポストモダーンの波動

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承前)忘れないうちにメモしておかないといけない。前夜祭「ラインの黄金」は一幕もので休憩がないのだが、上演時間の二時間半近くは結構長く感じた。端の席に座って不自然な姿勢になっていたのも原因だが、バイロイトではどうだったか?あまり記憶にない。当夜は暗い中を宿まで車を走らせたようだが、終演までの時間が経つのが思いのほか早かったと思う。一つには上へ下へのカストルフ演出の次から次への動きに忙しかったためもあるかと思うが、二年目のキリル・ペトレンコのテムポも当日の実況放送の通り早かった。それに比較して、今回のクリンゲンブルク演出のます体操の動きはあるのだが、抽象的な動きとなっていて時間が比較的ゆっくりと進む。そしてテムポよりもリズムにもその時よりは余裕のある指揮で、決して滞ることはないのだがせかせかした印象は全くなかった。一つ一つの音符を拾って行くだけでも、簡単に飛ばせない。 ― スペイン語で書いている人が、初日とツィクルスAの双方のタイミングを計っていて、一回目2時間16分、二回目2時間13分としている。因みにバイロイトでは2014年が2時間16分30秒、2015年2時間15分24秒だった。全く印象とは反対でテムポは段々早くなっている。

その最も顕著な響きは、バイロイトの時に沈没しそうになった流れの渦は大きくうねることはなく、寧ろ方々で岸まで至って小さな渦が消えて行くような塩梅で、そこに剥き出しの音が飛び交うような演奏であった ― 要するに蓋無しの演奏実践となるのだろう。それでも演出に従って、いつの間にか始まるような太古の目覚めにおいても粒よりの揃った響きで始まると同時に、リゲティ作曲「ロンターノ」のようでもあり、そこにオーボエソロなどが乗っても小節を利かせたりとはならずに粒が揃ったままなので、バイロイトでのように大波に飲み込まれるようなことはない。そうした効果が一掃されることで、大味に音型が奏されて戯曲的な大げさなバロック的な効果ではなく、やはり舞台からすればポストモダーン的な効果へと傾く。同時に管弦楽の音量がとてもよく管理されることとなり、歌詞の律動やそのアーティキュレーションが伝わりやすい。管弦楽が寄り添おうが他の声部を受け持とうが声との間での連綿とした楽劇となっているのである。

実は往路の車中では、2014年にレフェレンスとして残りを揃えたヤノフスキー指揮のドレスデンでの「ラインの黄金」を流していて、はじめはバカにして久しぶりに聞いていたのだが、そこでの歌手陣の巧さとその叙唱風の歌などのデクラメーションの巧妙な演出に関心していた。なるほどこれならばドイツでも標準版として売れる筈だと思った。その反面このオペラ指揮者が振ると千両役者が歌うところの伴奏と、それ以外で管弦楽鳴らすところとかがブツブツと断片にされているようなのだ。要するにオペラ劇場の奈落から聞こえる凡庸な音楽がそこにある。

それに比較するまでもなく、比較的重要な動機などが出て来ては繋がりの流れが見事に収まるのは、そうした歌声を楽器の声部と同じように扱うからこそで、それは新聞評にもあったようにまさしくコルセットの紐で締め付けるような窮屈感を生じるものだろう。例えばラインの黄金のハ長調のファンファーレが流れる印象的な黄金の輝くところでは、弦は漣ではなくこれはクリムトの金箔のように光り、三人の乙女が照らされる訳で、通常の浮遊感のある聴き所よりもぎっしりと殆どシェーンベルクの光景のようにそこに収まる。こうした効果は全くバイロイトではなかったもので、クリーゲンブルクの演出だから音楽的に現出したものかもしれない。声の無重力感か、その場の波動を描くのかの系の相違とも言える。これこそがバロック表現とポストモダーンの差異であろうか。

因みに音楽とは関係がないが、「バロック風演出での白塗りも」と考えた件は、この演出を見ると当たってはいなかった。そして舞台でゴルダ・シュルツを見るとそれなりに地肌の色が表れていたので不自然な白塗り感はなかった。もしかすると少しファンデーションの扱いを変えたのか、それともそれがポストモダーンの演出としても最適だったのか判断がつかない。個人的には、演奏の響きとその舞台を見ているとどうしてもマンハイムの劇場で経験したジーメンス作曲のオペラを思い出してしまった。演じるラムぺの傾斜にそこでゴリゴリと鳴る音楽はまさしくそれを思い起こさせる。

コンツェルトマイスターには若いシュルトハイスが任を得ていた。あれだけの演奏となると経験するだけで座付き管弦楽団としてはとても貴重な体験だろうと思った。オーボエとフルートのペアーも山賊兄弟ではなかった。なにか出し物によって人選が決まっているようでとても面白い。(続く)



参照:
運命の影に輝くブリキの兵隊 2017-04-11 | 文化一般
また泣いちゃったよ 2017-12-25 | 女
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by pfaelzerwein | 2018-01-15 04:29 | | Trackback
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