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騙された心算で行こう

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承前)モーツァルトのK482のヴィデオを観直した。また自身の書いたものによれば私の聞いた日は更に良かったようだ。今回改めて確認するとこの内田光子にラトルが付けた演奏は可成りの程度で、私が知る限りモーツァルトの協奏曲の演奏としてトップクラスであった。なによりも内田のピアノもこの分野においては明らかに彼女が尊敬するブレンデルを凌駕していて、その弾きこみ方が全く違う。モーツァルトのピアノ曲に掛けてはこの人以上にその内容を引き出せた人はいないと思う。他の追従を許さない。そこにこの全く単純ではない音楽でアインザッツを揃える点描的な指揮のラトルの演奏以上の伴奏は考えられない。ハイドンに関しては当代随一だとされるがモーツァルトも決して悪くは無かった。パウとオテンザムマーが並んで吹くのもいいが、これだけの演奏はロンドンでは到底不可能だろう。そこでどうしても考えてしまうのはペトレンコは自らもモーツァルト指揮者ではないと語るが、内田が今後登場するとしたら合わせることがあるのだろうかと興味深い。内田の伴奏は弾き振りもあるように結構いい加減な演奏も少なくないが、これだけ立派な演奏をやってしまうとどうしても比較になる。この演奏をチューリッヒへの道すがら聞いていくと、どうしても待たれる実演の分が悪い。指揮者ハイティンクがそれほどアーノンクール以降の奏法を取り入れているとは思わないが、その正確さでどうしても不安になる。ネヴィル・マリナーよりはマシだろうが、コリン・デーヴィス程度の指揮は可能なのだろうか。

もう一つのブルックナーの第七交響曲はチェリビダッケ指揮ミュンヘンの交響楽団の東京公演を二楽章まで観た。この指揮者は立派な演奏をすることがあるがこれは自身が他者を罵っていたように己がペテン師丸出しの演奏だ。大体後年のミュンヘン時代は評価はそれほど高くは無く、政治的に利用され、それに乗って丸々と豚になってガールフレンドと楽しくやっていたと聞く。まさしくそのような演奏で、交響楽団も二流だが、東京の聴衆がバカにされているようなものだ。あの静的なリズム運びは認めるとしても、あれでは全体像が一向に浮かび上がらず、交響曲の演奏ではありえない。精々「展覧会の絵」位を振っておけばよい指揮芸術である。

流石に続きを流す暇人ではないので、ハイティンク指揮のヴィーナーフィルハーモニカー東京公演を改めて参考資料にした。先ず三楽章を流す。フィルハーモニカーのアンサムブルに乗っかっているようではあるが、これが私の知っているハイティンク指揮のブルックナーである。同僚のブロムシュテットのそれと比較すると、やはりどうしても流線型に流す傾向が強く、一般受けはするだろうが、音楽の核心的なところが流れてしまう。だからと言ってそれほどいい加減さも感じなく、その分ブロムシュテット指揮にあるようなぎこちなさは隠される、一長一短ではなかろうか。

更に通して観てほぼ分かった。なるほどハイティンクの大雑把な指揮はマーラーよりはブルックナーに適当なのは間違いなさそうだが、主題と副主題や若しくは対旋律などとの緊張関係も何も読み込まれていないので退屈しやすい。指揮者の読譜が、ブロムシュテットのように各システムが歌い込まれていない。そして何よりも細かな音形を軽視しているので、ブルックナーの起承転結がハッキリしない。ヴァークナーの管弦楽か何かをBGMにしているような感じになる。勿論それなりのフィナーレも展開もあるのだが、その主題の性質や展開や扱いが分かり易いように奏されないので、のっぺらぼうな感じになる ― 典型的なカラヤン世代である。それにここでは慣れ切った管弦楽団がルーティンで弾いているので余計に悪い ― チェリビダッケのペテンとはまた違う意味でまるでサントリーホールの客をバカにしたような演奏が繰り広げられている。

ブロムシュテット指揮のブルックナーの一番優れているところは、如何にも無理な動機は角が落とされずそのままに弾かれることで、ぎこちないように聞こえるのだが、その主題の意味を把握しやすく、奏者もそれなりに意味を掴む。そこを狙う筈のチェリビダッケ指揮が晩年にはあまりにも実った果実からの利だけを求めるようになっていて上手く捗っていないのとは対照的だ。

出掛ける前からあまりにも期待の出来ないこととなったが、初めての管弦楽団であり、意外に手慣れずに苦労して弾いてくれれば面白い ― しかし残念ながら評判は正反対で上手過ぎて適当にこなしてくると聞いている。出掛ける目的は実はほかのところにもあり、先ずは騙されたつもりで車を走らせる心算である。ブルックナーなどは生の音を聞かないと判断出来かねるところも多い。



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by pfaelzerwein | 2018-09-18 22:36 | | Trackback
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