先に、劇か歌かの回答(承前)オペラの幕切れは、芝居の幕切れとどこか異なるのか?それとも変わらないのか?音楽の場合はその素材に縛られる。つまり終幕に来て新たな素材を出してきたのでは収まらない、文学以上に限られはしないか。そのように考えると、デズデモーナの「アヴェマリア」はいいとしてもシェークスピアの「柳の歌」がここに入ってくる。 今回の公演のプログラムにはこの件に関しては言及がないが、一幕の愛の二重唱、つまりシェークスピアの原作にはない「ジークリンデとジークムント」と比較される音楽に関して、その調からの逸脱や和声の流れの心理描写への言及がなされている。しかしここでは寧ろそこへ向かうまでの叙唱部分から上手に導かれていて、唐突さを感じさせない。それゆえにか名曲としてあまりにも定まってしまっていて、若干耳にタコ状態になっている。しかし今回の公演では、少なくともデズデモーナの歌としては最も説得力のあったところでもあった。 何よりも言及したその冒頭からの繋がりがとても丁寧に彫塑されていて、なり勝ちなセンティメンタルとは程遠い歌唱が繰り広げられる。丁度一年前の「ジャンニスキッキ」の娘の歌のように何か物足りないと思っていた人ももしかするといるかもしれない ― 管弦楽共々それほど丁寧な歌い込である。そしてデズデモーナの歌に付きまとうドルツェシーモの歌から、「お休み」と来て皆が分かるようなデズデモーナの最後の鶴の一声のような叫びが周到に準備される。だから誰もがそこで構える。場内はひっそりと息を飲む。そして楽譜には珍しくfしかついていない、体を固くしながらその一声を待っているので条件反射的に体が震える。まさしく一撃の棒が下ろされるのだ。 ハルテロスのその声も鋭くこれ以上にはないものだったが、その一撃に敢えて言及しざるを得ないのには、いくつかの理由がある。リコルディ出版に出した手書き楽譜には七つのpまであったという執拗にその音楽的な内容を伝える努力をした作曲家はここでは最高音Aisにfと書き込んでいるに過ぎない。勿論その前に同じように繰り返していて、最上級へと上がっていく準備がされているのだ。 もう一つの側面は、その準備というのが小さな枠の中で二面性を保有しているので、丁度小さなメロドラマ形式にもなっていると気が付く。ドルツェがドルチェッシモになると同時に、二面性が交互に現れる形にもなっている。 そこまで来ると、素材的に収まりの良い「アヴェマリア」から、もはやオテロの登場への音楽を待たないでも予定調和的に劇が先へと進む。要するにシェークスピアの名作に音楽を付けるのであるから、そこを如何に上手に運ぶかが腕の見せ所だったのだろう。 カウフマンのオテロは演技歌共に申し分なかったのだが、声も三日目のストリームイングの時のようには出ておらず、三幕におけるほどの出来ではなかった。正直なもので、幕切れの拍手のタイミングや湧き方も三日目よりは弱く、初日よりは反応が大分良かったぐらいだろうか。意外に一声一動作の存在感がイアーゴのフィンレイにあって、三幕四幕と裏に隠れていたので逆に注意を引いた。 今回の「オテロ」二度目の体験は素晴らしいもので、ドミンゴとクライバー指揮のそれと比較して、優れた点も多く、多くの点で勉強になった。だからと言ってドミンゴの歌などが完全に上塗りされることもなかったというのが正直なところだ。同時に来年の復活祭へのお勉強の傾向と対策をとてもはっきりと与えてくれた。今回以上の舞台や歌が期待できる訳ではないのだが、より細かなヴェルディのダイナミックスを含む筆使いに注目したい。 しかしなによりも満足できたのは、当時体験したストラーレル演出「シモンボッカネグラ」上演において、ヴェルディの上演がとても難しいと感じていた疑問全てに対してのペトレンコ指揮の回答だった。例えばたとえ初期のそれと後期のそれは異なるとしても劇におけるミレッラ・フレーニを代表とする大歌手などが朗々と歌うときの劇性の問題であり、ヴェルディ後期の創作での解決であると同時に、上演のアンサムブルの精度を上げることでの解決と、まさしく第四幕の音楽的な精査が齎した上演実践の秀逸であった。(終わり) 参照: 玄人の話題になる評論 2018-11-27 | マスメディア批評 PTSD帰還士官のDV 2018-12-03 | 文化一般
by pfaelzerwein
| 2018-12-18 00:21
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