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指揮芸術とはこれいかに

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とても面白かった。もう少し指揮技術が分かるとさらに興味深いと思う。登場した楽器編成やアメリカン配置などを見ていると、その楽団の作り方の方針が分かった。つまりした拵えは指導の指揮者がしっかり準備していてツアー前の練習で演奏を練るということらしい。

それが感じられたのは、予想していたようなアイコンタクトではなく、寧ろ通常以上にペトレンコの目線が楽譜に落とされていた。キューは普通に出しているが、あまり奏者を睨みつけないようにしていた。つまり奏者それぞれがどの程度出来るか把握しきれておらず、奏者が緊張してしまうリスクを避けるためだろう。ユース向けの対応であるとともになにか指揮経験というよりもこの人物のシャイと称される人間関係の作り方を垣間見た感じで面白かった。

それでも「春の祭典」で指立てもパーカショニストに向けられ、いいところは誉めていた。勿論「ウエストサイド」で吹き続けたフルートにより添ったり、「春の祭典」で支えたアルトフルートなども喝采で特別に賞賛された。ファゴットなども一通り立たせており、その辺りも上手にツアーの先を考えていたようだ。しかしこの指揮者のいいところはラトルのようにおべんちゃらをしないところで、オーボエなどは立たせた覚えがない。

予想通り、イントロダクションではそのオーボエも吹かしてしまっていたが、何事もなく先へと進めていて、停滞するようなことはなかった。フルートが二つ目の鳥の囀りを上手くこなしていた。それどころか「ウエストサイド」でも大きく管弦楽が息つくような方向へともって来ていて、何よりも車中で聞いていた自作自演のニューヨークフィルハーモニカーよりもこなれていたところもあった。自作自演のようにアフタービートで何かをやってくるかと思ったら断然西欧的な味付けでとてもバランスが取れていた。この辺の趣味のよさこそが彼をただのユダヤ人音楽家から超越させて、シェーンベルクの言う「ドイツ音楽の超越」の護持者としている。

なるほどユース楽団であるから音は揃わなく、粒だった音は出ないが、指揮の振り下ろしとその反射神経は年長者のそれとはまったく異なる。ラトル指揮ではないが、ペトレンコもまさにスポーツカーの運転のように遊びなく尚且つためを作って指揮していた。それが例えばクラフトのティムパニ協奏曲でもとても活きていた。あれぐらいの反応でないとティムパニーと合わせるのも難しく、中々上手く行っていたと思う。

「春の祭典」の終楽章も快速過ぎて、フルートなど管はとてもついて行けてなかった。あのテムポならばベルリナーフィルハーモニカーでも楽団側がためを作らないと揃わないと思う - まさしくヴィーナーのやり方に近づく。逆にアインザッツも「ウェストサイドストーリー」では活きていて、スイングしていたのは素晴らしかった。とてもいい指揮であった。

テムピは安定した繋がりにして、事故を防ぐ一方、拍子の変化を見るも見事に解決していた。要するにティーンエイジャーならではの演奏になっていて、ペトレンコがシカゴなどビッグファイヴの常任になっていたならばとかを彷彿させた。あれは職人的技術を超えて指揮芸術だと思った。間の取り方や、なにか懐からすっと三拍子が出てくるのにも鮮やか過ぎて目を見張った - なるほど誰かが千手観音と重ねて呟いていた筈だ。指揮技術がもう少し解れば、何が習えば出来るものなのか出来ないものなのかを峻別可能だと思う。何度も指揮を見ていても気が付かなかったような今まで見たことが無いような指揮ぶりだ。飽く迄も演奏者を立てながらもスタンディングオヴェーションになるにはそれなりの理由がある。

帰路にラムシュタインのベースに下りるところで速度制限に気が付いたがブレーキが足りずに記念撮影となった。全く眠気もなく、ラディオから流れる「ラインの黄金」で帰ってきていたが不覚だった。勿論正気であるから、最低の速度違反で最低の送金だけで片が付く点数が残らない駐車違反程度のものだ。それにしても誰のヴォ―タンかなと思った。フィンレーにも聞こえたがフィッシャーディスカウで、管弦楽も下手だなと思ったらカラヤン指揮の制作ものだった。あれならばペトレンコ指揮の生演奏の方が上手い。カラヤンのいい加減な譜読みは今更ではないが、この前夜祭に対するいい加減な指揮は、その復活祭を「ヴァルキューレ」から開幕したように殆どどうでもいい前夜祭だったのだな理解した。一つ一つとこの指揮者の残したメディアの価値が崩れ去っていく。高度成長期のように殆どが無駄な浪費制作に費やしたエネルギーだったことが明らかになり戦慄する。



参照:
ルクセムブルクへ一走り 2019-01-07 | 生活


by pfaelzerwein | 2019-01-07 21:09 | | Trackback
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