そこに滲む業界の常識帰路の車中のラディオでは電話インタヴューで指揮者らしい人が話している。ショスタコーヴィッチが奥さんと訪ねて来たとか、直接楽譜の印刷間違いを指摘してもらったとか、そのような話からドイツではショスタコヴィッチには人気がなく、マーラーとは違ってきているという話だった ― SWR2が説明するように戦後の連邦共和国ではフランクフルト学派のアドルノによるショスタコーヴィッチやシベリウスへの糾弾の影響が大きいとなる。その話し声が午前中ゆえか老人のようにはっきりせずふにゃふにゃで惚けた感じだったので、不思議に思った。話しの内容に合って、あり得るのはザンターリンクしかいない筈だが、親父は死んだ筈なのに、ベルリンにデビューとかあってまさかと思っていた。その通り息子の方だった。そしてその話しぶりにこれはあの写真などで見るのは誤魔化しのイメージだと確信した。コンセルトヘボーとか後任の噂に上る指揮者でもあるが、話を聞いているととんでもないと思った。 ハムブルクでのもう一つの目的地はブラームスの生家だった。1986年に訪ねたのだが、今のユネスコの地域から歩いてきて、素通りしただけだった。それでもこの通りに来た覚えがある。それでも今回郵便配達のお兄さんに尋ねたように車を前に停めても見逃しそうになった。目立たない建物ではないのだが、なんとなく目が行かない。当時、写真を撮ったのだと思うが、結局ハムブルクの分は喪失してしまったので、30年以上ぶりに確認しに行くことになった。今回の旅の目的だった。なにか記憶とその曖昧さが重なって、まるでゼーバルトの物語のように実像が滲んでくる。 まさしく私にとってはブラームスの音楽はその音楽構造にあのメランコリックな世界が重なって滲んでしまうようなもので、とてもここは不思議な感じがした。ここに比較するとバーデンバーデンでの下宿屋の方がくっきりとしていて気持ちがよい。 記録をそのネガ諸共紛失したと書いたが、実は今回もカメラの画像を移し替えていて、殆ど消去してしまいそうになって、幸いコピーしたものを再収集してもとへと戻す作業で何とか回復させた。原因はPCで使っているソニーのソフトにあるのだが、まさかと思い、三十年以上も呪われるのかと思った。決して意識していたわけではないのだが、たまたまソフトの問題があったのだ。意識して間違いの無いように扱うべきだった。映像なんてとも思うが、やはり記録は大切で、当時は旅行記などもメモさえしていなかった。そして移住するなんて考えていなかったものだから、あの波止場やブラームスの路地に再び足を運ぶなんて未定だったのだ。実際にこちらからは遠く、出かけるには些か大袈裟に言えば、それなりの覚悟も必要だった。 あの時と同じで今もまともな写真などは撮らないのだが、少なくともどこに立って何処を写したかさえ残っていれば確実にその場所を懐かしく思ったであろう。その意味では波止場でも有名な橋が架かっているザンクトアンネンの廃墟のところは車で通過しても印象があった。あの当時は今ほど整備もされていなかったから精々あの橋からの風景が特徴だったのではなかろうか。兎に角、溜飲が下がったことには間違いがない。どうしても遠方になると、なにもそこに珍しいものがあるわけではないので、よほどの用事がなければ出かけない。 そう言えば、有名歌手トーマス・ハムプソンからいいねが入っていた。その前はルカ・ピサローニというテノールバリトンで伝統の第九を歌っていた。ハムプソンはバーデンバーデンでメルケル首相と「パルシファル」で聞いて、そのあとは何といっても「サウスポール」初演が良かった。体格も良く、声もゆったりしていて凄みもあった。早速インタナーショナルな方でフォローしておいた。基本は何かのコンタクトがないとフォローしないので、僅か20件でも価値がある。それが分かると若手や無名の指揮者なども売り込みに来るようになる。そこで一覧に入ると僅かばかりでも宣伝効果があるからだ。勿論リストに上がっていない超実力者の影の目にも触れる可能性が無くはないからだ。 ハムプソン氏の場合は、バーデン・バーデンでの2013年のガラコンサートでの録画をご自身も気が付いていなかった可能性があり、当然の活動として自身の名前を検索しているうちにあれと思うリンクが見つかったということだろう。要するに業界人にとっては当然のネット活動の一環なのである。 参照: 「南極」、非日常のその知覚 2016-02-03 | 音 エルブフィルハーモニ訪問 2019-01-11 | 文化一般
by pfaelzerwein
| 2019-01-15 23:29
| 雑感
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