語学学習の原点に戻る
この写真をみて懐かしいと思う人が居る筈だ。マンハイムのゲーテ・インスティテュートのロビーである。フランスのアリアンス・フランセーズに当たる、外国人がドイツでなにかをしようと思えば強制的に行かされる連邦共和国外務省管轄の語学学校である。英国のブリティッシュ・カウンシルにもあたる。
私をここへ追い遣ったのは友人の会席で知り合ったおばさんである。彼女が教育者だったか、どうかは覚えていないが、知的階層の女性であったのは間違いない。そのようなことで強制的送り込まれた。当の学校は移転やら何やらで、その後も改装されて元の位置に戻ったとかいたと聞いていたが、殆ど当時と変わっていなかった。本年も催し物などあったがなかなか行けず、偶々近くへ寄った折に覗いて来た。そう言えば当時の教師が校長になっていることを忘れていた。声をかけてみても良かった。まあ、当時の馬鹿振りを改めて確認してもらうようでもあるが。 当時時間があったことも幸いして、我武者羅にドイツ語学習に熱中して短期間にドイツ語をマスターしたと言いたいが、それは真っ赤な偽りである。流石にトラウマにこそなっていないが、情けない想い出に満ち溢れるのみである。まだ当時は、昼からビールを飲むことが健全なドイツ生活の第一歩と考えており、昼飯時には飲んでいたのであった。そうすると宿題を抱えてワイン街道に車で帰宅する頃には、充分に出来上がっているのである。さもなければ帰りにワイン酒場で昼飯を平らげるのである。蔵出のワインを忘れてはいない。 そして気持ち良く昼寝が出来れば、夕方に起きてお勉強が出来る。しかし、直にまたお夕飯ですとなると、フーテンの寅さんのような生活となる。もちろん近くのスーパーで買いつけた安物のワインなどを飲むのである。 一杯飲むと、居睡りした後の喉の渇きが失せ、清涼感と共に杯が進む。これがいけない。一杯が二杯となり、二杯が三杯となる頃には、宿題は明くる日の朝早くにしようとなる。そして、また居眠りをすると、外は真っ暗で、朝かと思うとまだ夜半である。朝起きをしなければならないので、寝酒をまた一杯。 朝は、すっきりしない。ぐずぐずしている内に通学時刻となる。渋滞で遅刻をすると、あれよあれよと言う内に終えていない宿題をあてられて言い淀む。そのような日々を過ごしていては少しも上達しない。 講義に出ていればなんとか語学力が付くと思っていたのが甘かった。多くの同僚は、良く考えればなかなか優秀な人材が多く、皆さんは世界中で活躍している。そうした人材は、こうした勉強態度ではなかったのである。 今こうして当時のことを考えて反省ひとしきりであるが、もう一度その時へ時を戻すとしても、あまり私の勉強態度は変わりようがないことに気が付くのである。情けないかな、虎屋の森川信演ずるおいちゃんではないが、「馬鹿だねー、馬鹿は死ななきゃ治らないとはよく言ったもんだねー」となるのである。 しかし、それはそれなりに色々と考えることもあって、当時「ヒアリングが出来るようになって来ているので、いずれなんとかなるだろう」と励ましてくれた教師など、またあの時にもっと我武者羅に何を勉強していたら、語学力で差異があっただろうかなどと。 語学学習の二つの方法を吟味することが出来る。一つは、もし母国語が一つしかないとすれば、それに拘りそこから外国語を翻訳していく方法と、もう一つは出来る限り母国語の言語に影響されない外国語を身に付けていく方法である。前者は、旅行外国語や初心者から中級者にかけてはその確実性で、自己の知識などを移植しやすい利点が多く、表面上の進歩も早い。また後者は、中級から上級にかけてはこの方法でなければ文章を読むことも出来ないのみならず、速読などに必要な語学力養成には不可欠である。反対にこれは、年嵩を経た学習者には習得がほとんど不可能であり、出来る限り子供の方が良い。これをして、マルチリンガルと呼ぶに相応しい。また、前者の方法では、あるレヴェル以上の語学力の養成は不可能であり、如何に豊富な語彙から言葉を繋げてもその言語の言葉とはならない。一般的に日本人の英語力と呼ばれるものである。 すると、当時から後者の方法を採用して来たつもりであるが、反面日本語の思考に自信がなくなることも多い。最近、川端康成の「雪国」を原語で読んでみようと思い、ここ二月程枕元においても二頁も進まない。いつも停車駅の情景で詰まってしまい、列車はいつまでも発車しない。内容を読み取れない。あれほど読み易かった三島の文がとても面倒になった。慣れの問題かもしれないが。日本語活字の表面上の見難さは、致しかたがないとして、こうして自分の書く駄文を読むよりもアルファベットの方が頭に入り易く、完全に逆転してしまったのは比較的最近のことである。 これが何を意味するかは、現時点では不明であるが、この機会にドイツ語のみならず、ドイツ語との切り替えが今ひとつ落ち着かない英語や、見聞きだけでは一向に明らかな語彙不足から学習効果の上がらないフランス語のものなどの読書量を増やしてみたいと思っている。読みものは充分手元にある。外は一日中霧氷の霧である。夜は長い。 さて結論はこうである。当時もっと我武者羅に勉強しておくべきだった事は、精々発音の基本ぐらいで、あとは一にも二にも文法でしかない。三四がなくて五に文法である。語彙は、当時の勉強ぐらいは知れていて、その吸収量からするとどうせあまり役に立たない。
by pfaelzerwein
| 2007-12-22 03:10
| 生活
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