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手に負えない大馬鹿野郎達

二百五十キロを走って試飲会を梯子したのは初めてである。片道一時間の距離であるから大した事はないのだが、途中時速二百キロを優に越える走行もある。「口を湿らすだけで、所謂ごっくんとはしていない」ので、目が廻る事はなかったが、流石に一日の最後には緊張も解れて酔いが全身に廻った。

午前中三時間ほど滞在したラインガウのエルトヴィレから戻ってきて、ダイデスハイムに着いて、アイスヴァインなど一通りの試飲を終えて、嘗てのスター醸造親方でありミュラーカトワール醸造所を一挙に世界的に名を高めたシュヴァルツ氏に色々話を伺って、事務方の発送責任者に今後の日本発送への宿題を授けていると、三月の試飲会で出会った印象深い白髪の老夫婦に再会した。

あの砥石のようなミネラル質のワインが出来る地所モイスヘーレのリースリングが堪らないというかなりマニアックな親仁さんである。BLOG「新・緑家のリースリング日記」で御馴染み緑家さんの好みにもかなり共通していて、急にその変態性に親しみ感じてしまったのであった。

「こんにちは」

「ああ」

「モイスヘーレですか?」

「モイスヘーレ、メッケンハイムに住んでるですけど、あなたはワイン関係でしたっけ」

「いえいえ、ホビーですよ。我々みんなそうでしょう。今日ラインガウに行って試飲してから帰ってきましてね」

「おお、それは凄い」

こうした具合で話を始めた。

「私は辛口一本ですが、今年は甘口が面白いですよ、飲まれましたか?」

「いやまだだけれど」

「それからシュヴァルツ氏の赤ワイン面白かったですよ、赤はどうです」

「赤はあまり飲まないけど、マイヤーネッケルとか、アデナウワーとか、ベッカーとか」

「そうですか、レープホルツは来週ですね。行かないんですか?講話がいいですよね」

「まあ、行くと思うけど、そうそう」

「明日はビュルックリン・ヴォルフなんですが、どうですか?値段は高いですが、価値はあると思うんですけどね」

「どうも、十五年ほど前までは良かったけど、どうも口に合わなくて」

「分かりますよ。例えば2008年は温暖化から再び昔のようになりましたから、可也よいですよ、一度試してくださいよ。まあ、兎に角ここでも甘口を飲んできてください」

「ありがとう、早速試してみるよ。またお会いしましょう」

味覚とは恐ろしいもので、特にこうした偏執なものとなると、長ったらしい文章を書くよりもその好みを知るだけで、その人の特質に迫ってしまえるのだ。

そしてどこかの名医が言うように自覚症状がない患者の方が手に負えないのである。
by pfaelzerwein | 2009-05-17 14:16 | 試飲百景 | Trackback
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