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咽喉元を突く鋭い短刀

新聞の批評を読んでいて三島の映画「憂国」が復刻したことを知った。亡くなった未亡人によって、廃棄されていたものである。

その三島自身が演じるこの復刻作品とコッポラ制作の映画「MISHIMA」が今回修正されてDVD発売された。前者の写真は一時「憂国紀」などと書かれて町中の電信柱に貼られていたので覚えている人も多いだろう。しかし、恐らくTVか何かで少し見ただけで全編を観た覚えはなかった。そして、後者のポール・シュレィーダース作品で白黒写真からの再現フィルムで再会する事になる。

緒方拳扮するオムニバス四部形式の三島の作品が、作者の現実の切腹に向けて集約されていく形式をとっていて、この新聞評では1980年代の最も優れた映画作品となっている。その評価はさて措いて、その映画自体も憂国と同じように未亡人の「作家プロフィールの同性愛へ偏重」への異議から、その制作すら危うくなったとある。

東宝スタジオで日本人スタッフによって撮影されたにも拘らず現在までも日本国内では上映されていない理由は、同様な配慮であって、当然の事ながらだからこそ東宝はその事実をあまり明らかにしないと書かれている。

さて、二二六事件を扱った短編「憂国」について作家本人が語っていることで最も印象に残っているのは、新橋のバーのママがそれをポルノとして読んでくれている事に感激している云々であるが、他で書いているものなどを読むと川端康成作品の影響も見受けているようで、その作品自体よりも映像表現の方が優れているとする評価も少なくない。

実際1964年大映スタジオ撮影のこの27分の白黒作品は、撮影監督藤井浩明の意思で放棄処置指令に係わらず隠されていたネガによって復刻されている。特にクライマックスでの切った腹から腸が溢れ出すシーンは豚のそれを道具の工藤貞夫が用意したとある。黒いがその赤い血の色こそが強調されているそうだ。

そして興味深いのは、英語・フランス語・ドイツ語字幕版は日本語字幕版よりも、三島は外国人の読解力を危惧してか二分長いという。

いずれにしても二つの映像作品を改めて観比べたいと思うが、「MISHIMA」の終景の「日の出の元での切腹」の朝焼けの赤を血の色のように今回修正されたのは十分に納得出来る。この新聞批評が強調する「1970年11月25日の決行への道程」には今や興味はないが、こうして距離をおいて二つの昭和の事件やその描き方を考慮すると、三島由紀夫の行動は嘗て思われていたような政治思想や美学よりもその*文化表現で遥かに危険であったことが伺い知れる。

その真意を質せば、日本の近代化の基本構造を一瞬にして瓦解させるだけの威力を持っているに違いない。歴史の中で、三島の示した近代を十分に文化的に捉え切るのはまだまだ容易ではないだろう。なぜならば、それを今日の日本人が直視しようとすれば、自らの喉元に鋭い短刀を突きつけられるようなものだからである。 ― 二〇〇八、八、二三 ―


*前略...華美な風俗だけが跋扈している。情念は涸れ、強靭なリアリズムは地を払い、詩の深化は顧みられない。...我々の生きている時代がどういう時代であるかは、本来謎に満ちた透徹である筈にもかかわらず、謎のない透明さとでもいうべきもので透視されている。

...どうしてこういうことが起こったのか、ということが私の久しい疑問であった。

...そこでは、文化とは何か無害で美しい、人類の共有財産であり、プラザの噴水の如きものである。

...フラグメント化した人間をそのまま表現するあらゆる芸術は、...その断片化自体によって救われて、プラザの噴水になってしまう。...われわれは単なるフラグメントだと思って我々自身に安心する。

...禁止は解かれ文化は尊重されたのである。...文化主義はこのときにはじまった。すなわち、何 も の も 有 害 で あ り え な く な っ た の で あ る。

...文化は、も の として安全に管理され、「人類共有の文化財」となるべき方向へ平和的に推進された。...しかしこれはもともと、大正時代の教養主義に培われたものの帰結であった。...後略 

三島由紀夫著「文化防衛論」(昭和四十四年四月)



参照:
Die Kunst, als treuer Mann zu sterben, Andreas Platthaus, FAZ vom 20.8.2008
MISHIMA (YouTube)
妻麗子の幻影 (歌舞伎舞台の記憶)
憂国/思想と道徳と美学について (ミニシアター通信)
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by pfaelzerwein | 2008-08-24 00:54 | マスメディア批評 | Trackback